クリスタルな彼女

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 わかるか? アイスマンだ。いや、女だからアイスウーマンというべきか? この際名称はどうでもいいか。  散々驚いて騒ぎまわったので、今は自分でも気味が悪いくらい冷静だ。いや、冷静を装っているだけなのかもしれない。  グラスに目一杯水を入れた時に表面張力で液体がこぼれないでいるような、そんな得も言われぬ緊張感はある。 「落ち着いた、健二?」 「ああ、なんとか……それにしても、本当にこうなった理由に心当たりはないのか?」 「あるワケないでしょ! 変な薬も飲んでないし、謎の科学者に誘拐されて変な装置に入れられてもいないし、別にトラックに轢かれて転生した訳でもないから!」 「そ、そうか……」 「ま、自然にこうなったら逆に自然に治るんじゃないの? 焦っていても仕方ないよ」  意外にも彼女・夏子の方が立ち直るのが早かった。鏡を見なければ自分の顔を見ることがないからか、それとも氷になっただけあって頭が冷えているのかもしれない。  関節の部分はどうなっているのかとか、表面の温度はどのくらいなのかとか、肌をカリカリ削ったりとか、そんなどうでもいい分析や実験をしていた。 「お前……どうしてそんなに冷静なんだ?」 「騒いだからって解決する訳じゃないし、それによくよく考えたら虫とかじゃなくて良かったなって。まあ、見た目は綺麗だし」 「それは、確かにそうだな……」  彼女が巨大な虫になっていたら、俺はとてもじゃないが冷静にはなれなかっただろう。氷人間になった彼女は(はた)から見ても美しい。まるでクリスタルガラスのようだ。  青と白のヴェールに覆われた彫刻のような体に、部屋の安いLED電光が反射して七色に輝いている。その造形は細かく、指先は滑らかで睫毛の細さまできちんと再現されていた。  長い髪は若干太くなっているが、動くたびにシャラシャラと涼やかな音を鳴らした。そのままさっぽろ雪祭りか美術館に飾られていてもおかしくはない。
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