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「それにほら! 今の時期は涼しくていいんじゃない?!」
「ひんやりするな……あー、気持ちいいー……」
夏子と並んで座ると冷気がふわふわと漂ってくるのを感じる。彼女の体は冷たいが、実際の氷ほどではなく、しかも溶けてくっついたり水分でベタベタもしない。程よい涼しさだ。これは人気者になれるかもしれない。
……冬場のことは考えずにおこう。
「そうそう。健二がパニックになってる間に色々試してたんだけど」
「試してたんだ……」
「うん。暇だし」
女ってヤツは日頃はしょうもないことでキャアキャアと騒ぐくせに、どうしてこういう非常事態には異様に強いんだ。
サバイバルさせたら意外としぶといかもしれないとぼんやり思った。まあ、今の夏子に食事が必要なのかはわからないが。
「この体が傷ついたらどうなるのかなって思って、とりあえず髪を少し折ってみたんだ」
「切ったじゃなくて折ったなんだ……」
「まあ、髪は元々痛覚ないから平気なんだけど。それでね!」
人の言葉を少しは聞いて欲しい。夏子は俺のツッコミを無視して喋り続ける。
「断面に氷の粉が付いちゃったから水で洗ってみたの。そうしたら、なんとなんと。水が凍ってまた髪になったんだ!」
「え? 髪が再生したってこと?!」
「そう! すごくない?! 体も多分痛覚なさそうだし、これなら無限に氷を生み出せるよね? かき氷屋さん作ったら人気でないかな?!」
いやいやいや! いくら氷になったとはいえ元人間のかき氷とか怖すぎるから! 誰が食べるんだよ、そんなもの!
「ホラー映画かい!」
「そ、そうだよね。ごめん……」
つい勢い良く突っ込んでしまったが、途端に夏子は元気がなくなって俯いてしまった。なんだか様子がおかしい。
……いや、そもそもこの状況で平然とかき氷なんて言い出す方がよほどおかしいか。もしかして、今までのは夏子なりのユーモアというか、空元気だったのかもしれない。
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