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「大体、名前が夏子なのに体が氷っておかしいよね。シャレにならないよ……」
「まあ……」
笑えないのは間違いないが、夏子が落ち込んでいるのを見るのはツラい。どうやったら元に戻るのかなんてわからないし、だったら前向きに有効な使い方を考えるっていうのは確かに名案かもしれないな。俺はない頭をしぼってありったけの案を出してみた。
「南の方の遊園地とかに行ってマスコットガールになるのはどうだ? 絶対人気者になれるって。お前の体を食べるのは抵抗あるけどかき氷屋さんで働くのはナイスな案だと思う。今って、冬でもかき氷売ってたりするじゃん。あとは、企業に雇ってもらうのもいいんじゃないか? フィギュアスケートとか冬季五輪で公式サポーターに選ばれたりリポーターもさせて貰えるかもよ?!」
早口で捲し立てたが、何故か彼女は泣き出してしまった。涙が美しい氷の結晶になって、キラキラと光り輝きながら落ちて行く。
しまった。励ますつもりが逆効果だったか……
「ご、ごめん! 見世物みたいで嫌だったな。もっと、他にいい案……」
「違うの……健二って優しいなって……」
「え……?」
「彼女が人間じゃなくなったんだよ? 家族ならともかく、今すぐ逃げ出したっていいのに、こうやって親身にしてくれて……ありがとう……」
……ああ、そういえば。こんな姿になっても、俺って夏子を嫌だとは全く思わなかったな。7年もダラダラ付き合って同棲までしてるのに、俺は今まで一度も結婚を真面目に考えなかったし言い出さなかった。夏子もそれを責めないでいてくれた。
なんとなく面倒だと思って避けてたんだ。でも、それは別に夏子と結婚したくないという訳じゃなくて、既に結婚しているようなものだったからそれ以上のことが面倒くさかっただけなんだ。
皮肉なことに、こんな状況になって初めて俺は夏子のことが本気で好きなんだと思った。
「当たり前じゃないか。俺はお前の彼氏なんだから」
そう言って、俺はゆっくりと夏子に近づく。クリスタルのように透き通った美しい彼女の顔が徐々に目前に迫ってきて、唇が重なり――
冷たっ!!!
いつもなら暖かくて柔らかいキスの味が、今やすっかりアイスキャンディーである。しかも水っぽくて全然甘くない。保冷剤にキスしてるような感触だった。
しかし、ここまで来て引けるものか。
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