6人が本棚に入れています
本棚に追加
「夏子」
「なに、健二?」
「その、そのだな……俺とけ、け、けっこ……」
いざ言うとなるとどうも煮え切らない。俺は一息に言い切ろうと思い切り息を吸い込んだのだが、どうも俺という男はつくづく間の悪い人間のようだ。
「ぶえっくしょーーーいッ!!」
盛大に今までのムードをぶち壊しにするくしゃみを放つ。
――と、同時に俺は目を覚ました。
◇
「……アレ?」
「あ、起きた? 健二ったら布団はいで寝てたから体冷え切ってるよ。大丈夫?」
「…………」
俺はまじまじと夏子の顔を見つめた。薄めの化粧、少し日焼けした肌、黒い瞳と髪、ぷっくりとした桃色の唇。いつもどおりだ。
起き上がって腕を触ると確かに冷たくなっている。扇風機の前で昼寝をしたため全身が芯から冷えており、今にも凍えそうだ。だからあんな変な夢を見たのかもしれない。
「へっくしょい! うう、寒……」
「もう。風邪引かないでよね。折角いいもの買ってきてあげたのに」
「いいもの?」
「ガジガジくんのコーンポタージュ味。食べそこねたからどうしても欲しいって前に言ってたでしょ? 見つけたから買っておいてあげたよ」
「本当に?! おっしゃああ! 食べたかったんだよ、それ!」
喜ぶ俺の顔に、夏子はふざけてアイスの包み紙をピタリとつけた。
……その感触に覚えがあり、もしかして寝てる間にも顔に乗せていたんじゃないかとふと思った。
「なあ、夏子」
「なに?」
「……いや、とりあえずアイス食べようか。一緒に」
「なーにニヤニヤ笑ってんのよ。そんなに嬉しかった?」
「まあ、な。ヘヘ」
アイスを食べたら、さっき言えなかった続きを言おう。
今言ったら、きっと熱々の空気でアイスが溶けちまうからな!
――翌日。
俺は風邪を引いた。
それも、もの凄い風邪を引いた。
きっと、ひんやりと熱さの温度差がすごかったせいだろう。
〈 完 〉
最初のコメントを投稿しよう!