届けるは愛の文

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「お兄さん、郵便屋さんですか……?」 背後から聞き慣れない声で呼ばれて振り返ると、白いワンピースを着た可憐な少女が立っていた。 少女曰く、隣町ザドゥーワへ手紙を届けて欲しいとのことだった。この仕事は依頼を受けてもはいわかりましたと受けるわけにはいかない。配達には命の危険が伴うため、それ相応の値(ね)がかかるのだが、少女は動じずに、握りしめた金貨を三枚、俺に手渡した。 「お願いします」 と、少し顔を赤らめながら一言だけ添えて、そそくさとどこかへ行って しまった。 「それにしてもこれ……どう見てもラブレターだよな……」 真っ白な封筒。ハートを象(かたど)った蝋(ろう)。誰が見てもラブレターだ。そして裏には付箋で、住所の詳細が記されていた。 今日はもう日が暮れようとしていたので、今すぐ出発するのは難しい。 いつもの宿を借りることにしよう。 「この宿で寝るのも、ひとまず今日で最後か」 お世辞にも綺麗とは言えない宿だったが、価格も安いうえ、宿主もとて も親切にしてくださった。また機会があれば立ち寄りたい。 ザドゥーワはそんなに遠くない。明日の早朝に出れば、明後日の昼に は着いているだろう。朝は特に、危険な夜行性のモンスターが一番緩慢(かんまん)になる時間帯なので、配達にもうってつけだ。 準備など、とっくに済ましていた俺は、ほこりくさいベッドに早々入り、
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