届けるは愛の文

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 草原を歩くうえで一番大切なのは、いつ何時(なんどき)も、決して油断をしては ならないという事だ。俺の生まれた国、言わば母国というものは、もう、 残っていない。俺が十五の時に、国が消えた。正しくは、潰れたのだ。 国はただ、草原の上に建っているものだと思い込んでいた。だが、実は とてつもなく巨大なドラゴンの、背中の上に建っていたらしく、ドラゴ ンの数百年か、将(はた)又(また)数千年振りかの寝返りによって、一瞬にして国が潰 れた。幼い頃から定期的に国外へ出向いていた俺はたまたま生き延び、 人並以上の国外に関して知識があったため、この郵便屋の仕事を始めて、 なんとか生計を立てている。  もしかしたら数秒後、物陰からモンスターが現れるかもしれない。も しかしたら数秒後、天地がひっくり返るかもしれない。ありえないとい う事が容易に起こりうるこの草原を、やはり信じてしまっては、明日の 命は無いだろう。 草原に主に出没する、比較的生息数の多いモンスターは、大まかに分 けると五種類、この中でも最も危険なのがゴブリンと呼ばれるものだ。 体長は約八十センチ程度で、緑色の肌を持つヤツらは、非常に知能が高 く、武器を用いる。また好戦的な個体が多いため、襲われて、命を落と す者も少なくない。例え一匹だろうと見かけたらまず、逃げた方がいい だろう。
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