届けるは愛の文

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草原をしばらく歩くと、気づけば俺は、森に飲み込まれていた。背の 高い青々とした木々に囲まれ、足元の草も、心なしか高いものが増え た気がした。どこからか、普段聞くことのない珍しい鳥の鳴き声も聞こ える。微かに届く木漏れ日を見るに、そろそろ十二時を回る頃だろう。 丁度いい、日差しも遮れることだ。食事にしよう。近場の岩に腰を掛け、 すっかり使い古された肩掛けの鞄から、朝早くに宿主が作ってくれた大 きなハムサンドイッチを取り出し勢いよく頬張った。  食事を終え、森を抜け、照り付ける太陽の下、ひたすら足を進める。 靴越しに伝わる草の感触。どこからか飛ばされてくる砂の味。五感を活 性化させたまま、歩き続ける。疲労がピークに達し、次回は依頼料を金 貨四枚にしようなんて、頭に過らせていた、その時だった。 地が揺れ始めた。地震ではない。足の裏に微かに感じるこの揺れを、俺 は知っている。馬車だ。二匹の馬が物凄いスピードで一直線にこちらへ 向かってきている。 (何かに追われている……?) ただ急いでいるだけならそれでいい。だが最悪の場合、モンスターに追 われているのかもしれない。用心するに越したことはない。腰に携えた ナイフを取り出し、岩陰に身を潜める。次第に大きくなる揺れと共に、 ドタドタと足音も聞こえてきた。あと数秒もすればあの丘の向こうから、 この音の正体が姿を現す。頼む、急いでいるだけであってくれ。 (来る……!)
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