まじってる。

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 ***  わかりきっていたことだが、見事に帰りは八時を回った。教員の負担を減らすだとか、ガイドラインが変わったとかでこれでも部活動時間は短縮傾向にあるのである。以前は九時までやっていたから、これでも早く終わった方といえば終わった方だった。勿論、この帰宅時間が高校生として普通であるのかどうかなど私にはわからないことなのだが。  学校を八時過ぎに出れば、例のスクランブル交差点を通るのは八時半くらいになる。日はすっかり沈み、されどコンビニやブティックの明かりで煌々と照らされる大通り。夜道の危険など一切感じない、非常に明るく人通りの多い道であるのは間違いなかった。香織に怪談さえ聞いていなかったら、私も一切不安を感じることなく駅へと向かっていたことだろう。  でも、今は。周囲で同じように信号待ちをしているたくさんの人の存在が、非常に煩わしいと感じてしまう。  今まで意識などしたことはなかったが、確かに人ごみの中を待つ大人たちの顔は皆――暗く沈み、浮かない様子であるように思えた。ああ、よりにもよって何故、今日が月曜日なのだろうか。 ――……香織のヤツ。あとでマジでしばく。めっちゃ意識しちゃうじゃん……。  スクランブル交差点の待ち時間は、長い。恐ろしく長い。  隣にいるサラリーマンは、どんよりとした目で斜め下をじっと見つめている。  少しシュッとした派手目の服装の女性は、携帯電話を見手何やら舌打ちをしている。  そして、その奥の作業服らしき男性は、電話に耳を当てて口元をおさえつつ、ぼそぼそと何かを喋っているではないか。しかも時折、ぺこぺこと頭を下げている。とても楽しい電話をしているようには思えない。 ――ほんと、みんな暗い顔ばっかり。……大人になると、私もこういう風に嫌な顔しながら仕事しなきゃいけなくなるのかな。……なんか、そう考えると、お先真っ暗って思っちゃう。  どろどろと、人の暗い気持ちが周辺に漂い、集まり、圧迫されていくのを感じてしまう。誰かがぼそり、と呟く声が聞こえた。 「はあ……まだ、月曜日かあ……」  週五日で働いている者ばかりとは限らない。きっとシフト勤務の接客業などは、土日など関係なく仕事をしていることだろう。  それでも、やはり――月曜日に仕事が始まり、憂鬱な気分になる者は少なくないということであるらしい。あと五日、頑張らなければならない。あと五日、耐えなければいけない――否、人によっては六日以上ということもあるかもしれなかった。 ――やだなあ。  気持ちが酷く滅入ってくる。大人なら、もっと子供が希望を持てるような生き方をして欲しいと思ってしまう。いつも疲れきり、暗い顔ばかりしている親世代を見てばかりいて、一体どうすれば子供達が未来に希望を持てるようになるというのだろう。大人になりたいと願えるようになるのだろう。  彼らが全て悪いとは言わないが。いわゆるこういうのを一種、“社会の歪み”だの“絶望的なご時世”だのと呼んだりするのではないか。
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