まじってる。

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まじってる。

「人ごみの中ってさ、時々“混じってる”らしいよ」 「は?」  ただ今教室で、絶賛昼ごはんタイム中。唐突に香織がそんなことを言い出したので、私は若干ひっくり返った声を出してしまう。とにかく話題転換が急だったのだ。今の今まで話していたのは、“駅前のスクランブル交差点の前に、新しくマルユーができたらしいよ”という話である。  ちなみにマルユーというのは、海外発祥のファッションブランド。洗練されたデザインのわりに、私達のような女子高生のお小遣いでも手が出そうな値段で服やバッグが買えると評判の店なのである。学校の最寄り駅に、そんな楽しみスポットが増えたのは大歓迎だ――ということを喋っていた矢先だ。全く意図が見えない。混じっているって何が?である。 「あー、ごめんごめん海美(あみ)。いやさ、駅前のスクランブルって渋谷ばりに激混みすんじゃん?特にあたしらが部活で帰る時間とかヤバイでしょ。どこのバーゲンセールかよってかんじ」 「まあ、そだね。デカい駅だし店多いし、オフィスビルも多いからしょうがなくない?おかげさまでうちらの学校も校庭超狭いし」 「うん、わかってるけどさあ。あんなに混んでるとそりゃもうストレス貯まる時もあるわけよ。信号変わっても歩き出さないヤツなに?って思ったら先頭のヤツがスマホ見てたりとかさあ」 「あーある……」  でも香織も人のこと言えないからね、と私は心の中で思っていたりする。彼女も結構なスマホの虫だ。廊下で妙にゆっくり歩いてると思ったらSNSに釘付けだった、なんてことも珍しくない。  友人だし、悪い子ではないのだが。人間、自分がやらかしていることは存外見えていないものなのだ。人の失敗やマナー違反を妙に目ざとく見つける人間ほどそうである、と私はよーく知っていたりする。  あまりガラの良くない私達の高校。真面目な生徒もいるが、校則何ソレ美味しいの、ばりに遊びまくっている生徒もいる。良くも悪くも“人種”は豊富だ。隣のクラスの誰々はエンコーしてるんじゃないか、なんて噂も立ってしまうほどに。  まあ、それこそ私も人のことを言える質ではないのだけれど。本命の高校に落ちて、滑り止めで入れた学校があっただけマシというものだ。それに香織を含め、彼女達は見た目は派手だし言動も過激だったりするが、付き合ってみるとけして悪いところばかりではないのである。 「で、混じってるって何が?人が多いってのは知ってるけど」  そして話がやっとそこに着地する。うちの学校の最寄駅前が某ネズミの王国ばりに混む、なんてことは今更すぎるほど周知の事実だ。 「あーうんそうそう」  香織はお弁当の唐揚げを箸でつまみながら言う。
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