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食堂の隅で昼食をとっていた所、突然汚泥が目の前に落ちた。シチューは汚泥で茶色く濁り、まだ二口しか食べていないそれは呆気なく廃棄物と化した。犯人は同期生だ。浮遊魔法で何処かから汚泥を運び、詩季が食していたシチューに落としたのである。食べられなくなったシチューを呆然と見下ろす詩季を、近くにいた同期生たちが声を殺して笑っている。
食事をダメにされるのはかなり身に応える。寮生である詩季たちには三食決まった時間に食事が与えられるが、追加オーダーは完食した物のみ許される。食事を汚泥まみれにされたと申し出れば、代わりに新しい食事が与えられるかも知れない。しかし詩季はそんな手間や労力にもほとほと疲れ、追加オーダーをすればまたお前かと嫌な顔をされるのも目に見えていた。
何故こうなるのだろう。
詩季がこういった嫌がらせを受けるのは今に始まったことではなかった。ノアンドール学園入学当初から、詩季の入学を同期生たちはよく思っていないのだ。
詩季はテーブル席から立ち上がり、食堂を出た。昼休みの時間はまだ十五分近くある。クラスがある教室へは向かわずに、外の景色を眺めようと外通路に出た。古城を装った校舎は自然溢れる平野に高く聳え立ち、外から見る景色は偉観だった。
西の方角に目をやると、湖を越えた先に死灰の森が広がっている。遠くに見える雪化粧が施された山の麓にまで続くそれは、魔法使いでも足を踏み入れるのは恐れ多い広大な迷宮と言われていた。
詩季は緑が多い学園周辺を一望しつつ、溜息をついた。外は春らしい快晴だというのに、心は大荒れだった。石造りの塀に体を預けてその場にズルズルとしゃがみ込んだ。
泣くもんか。言い聞かせるが、やはり心は正直だ。大粒の涙が防波堤を乗り越える波のように詩季の双眼から溢れ出した。
「私ばっかり……何でよ……っ」
虐げられる理由は自分でも理解していた。入学当初、実家に帰省した時に祖母に相談した事がある。
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