第1章 ノアンドールの劣等生

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 祖母からの回答は、至って単純だった。虐げられるのは、魔法使い同士の子供ではないからだ。  魔法使いの殆どは魔法使い同士の子供だが、詩季は違った。祖母は魔法使いであるイギリス人の父親と魔法使いではない外部の日本人との間に生まれたハーフだった。二人の間に生まれた姉妹二人は外部の血も混ざった事によって魔法使いとしてではなく、外部の人間として生まれた。そして外部の人間だった姉の方が日本人の男──詩季の父親となる人間と結婚し、詩季が生まれた。  魔法使いの血が薄れていた血族にとって、詩季が魔法使いとして生まれたのは奇跡に等しかった。魔法使いだった父親から血を受け継いだ祖母は魔法使いだった。祖母は魔法使いとして生まれた詩季を非常に愛で、詩季に魔法を指南した。  そして詩季は七つの歳を迎え、ノアンドール学園への入学が決まった。ノアンドール学園にとって、魔法使い同士ではない魔法使いの入学は特例だった。魔法使い同士の子供は純血種と呼ばれ、魔法使いの血族でありながら外部の人間との間に生まれた子供は混合種と呼ばれる。後者だった詩季がノアンドール学園に入学を果たせたのは、魔法使いである祖母の手解きがあったからだ。  純血種よりも魔力が劣って生まれる混合種は、並大抵の修行では魔力の増幅は叶わない。時には血反吐を吐き、幼子ながらに自身の精神と何度も向き合う過酷な修行が詩季を学園入学へと導いた。  立派な魔法使いになるべく、輝かしい学園生活が待っているとばかり思っていた。しかし現実はどうだ。混合種である事を非難され、好成績を残そうものなら邪魔をされ、ろくに食事すら取らせてくれない。  心置きなく話せる友人などは一人もいなかった。  こんな生活があと十年続くなら、いっそ自主退学してしまおうか。入学から三年経った今、それも本気で考えるようになった。
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