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「こんな所にいたの」
涙に濡れた顔を上げると、同期生のクリスティーヌ・バーバラとその取り巻きが四人、泣いている詩季を嘲笑っていた。詩季に嫌がらせをしてくるのは主にこの五人だ。食事をダメにされても大した反応を見せなかった詩季が面白くなく、詩季の後をつけてきたのだ。
「ねぇ百合園さん、あなた、使い魔を使役したくない?」
クリスティーヌにそう尋ねられ、詩季はある予感に背中が冷えていく感覚を覚えた。
「使い魔なんて……まだ使役できないもの……」
「あら、分からないわよ。やってみないと。先生にも言われたでしょう。気になった事はどんどん挑戦しろって」
「でも……」
「つべこべ言わずについて来なさい」
クリスティーヌの気迫に負けた詩季は、四人に腕を掴まれて学園の外に連れ出された。
これから午後の授業だと言うのに、戻らないと叱られる。それよりも、クリスティーヌが何処へ連れて行こうとしているのか分かった詩季は、叱られる事よりも死を意識していた。
湖のほとりに一隻の小舟が浮かび、それに乗るよう命令された。
「死灰の森に入って、ブルームーンを使い魔に使役させられたら認めてあげるわ」
要求は予想通りだった。しかし、無理難題にも程がある。詩季にはまだ使い魔に分け与える程の魔力が備わっておらず、下級レベルの魔法使いである詩季には獰猛なブルームーンを使い魔に使役するなどとても無理な話だった。
「そんなの無理よ……ブルームーンは危険だって、先生も言ってたじゃない」
「口答えしないで! いいから早く森へ行って! 午後の一限が終わる頃になったら帰ってきても良いわ。それとも何? この前覚えた火炎魔法でそのうざったい赤毛を燃やされたい?」
抵抗すれば脅してくる。同じ人間とは思えない所業に、当初は反抗していた詩季の感覚も麻痺していた。この世は弱肉強食だ。少なくとも、魔法の世界であるここはそうなのだ。
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