第1章 ノアンドールの劣等生

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 詩季は三人乗りが限界の小舟に腰を下ろし、中にあった櫂で水底を押した。ほとりで様子を眺めるクリスティーヌたちがどんどん遠ざかっていく。その反面、陽射しが木々によって遮断された薄暗い死灰の森が迫ってくる。  学園から見える森の木々は模型の様に小さかったが、いざ目の前にすると大きくて飲み込まれそうな恐怖を感じる。  森のほとりに辿り着いた詩季は、黒いジャケットの前ボタンを外して杖を出現させた。もしもの時に祖母から護身魔法として氷結魔法を教わっている。それはまだ人間には使ってはならないと教えられていた為、クリスティーヌにも対抗できずにいた。  森を前に背後を振り返る。クリスティーヌ達が向こう岸で見張りをしていた。  風の音だけが聞こえる暗い静かな森に視線を戻し、詩季は固唾を飲んだ。ブルームーンは湖の近くには現れない。人目を避けているため森の奥地で群れをなして行動している。  今怖気付いて戻れば、教師からのお叱りとクリスティーヌたちからの制裁が待っている。この際、ブルームーンでなくてもいい。彼女達に対抗できそうな魔獣を、一体手懐けて帰ってやろうと、詩季は森の中へ一歩踏み出した。
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