第2章 蒼月の瞳

2/6
前へ
/30ページ
次へ
 陽射しが恋しかった詩季は杖の明かりを消して陽だまりの中心に立った。辺りには白骨化した魔獣か人か分からない骨が転がっている。  只ならぬ気配を感じて頭上を見上げると、一羽の双頭の大鴉が森の上を旋回していた。学園からは小鳥が舞っているようにしか見えなかったが、近くで見たら人間の大人と同じくらいの背丈はあるだろう。そんなことをぼんやり考えていると、旋回する大鴉は突然双頭をこちらに向けて急降下してきた。  詩季は慌てて森の木の下に駆け込もうとしたが、相手の方が早かった。地上に降り立った双頭の大鴉は詩季の行く手を阻むように大きな羽を広げてギィギィと甲高い威嚇の声を上げた。  ここで気付いた。この拓けた場所は、双頭の大鴉の餌場だ。ここに現れた獲物を食い荒らしていたのだ。  気付いたが時すでに遅し。大鴉は二つある嘴を大きく開けてけたたましく鳴いている。鉤爪を持つ足に引っ掻かれたら、詩季の小さな体では只の痛手では済まない。詩季はあまりの恐怖に護身魔法の事も忘れ、足が(すく)んで動けなくなっていた。  教師からの言いつけを破った代償に、ここに転がる骨と同じ末路を辿るのか。そんな身も凍るような結末が頭をよぎったその時だ。  物凄い速さで森の茂みを駆け抜ける地響きと共に何かの足音がこちらに近付いて来る。そしてそれは突然、視界の端から姿を現した。白銀の体毛に覆われた一頭の大きなオスの狼だ。その体長は三メートル近くある。狼は詩季に気を取られていた大鴉の喉にかぶり付き、羽をバタつかせて抵抗する大鴉に体を振り回されても離そうとしない。  詩季はその迫力に腰を抜かし、その場に尻餅をついた。震える息遣いで詩季は狼に見入った。振り乱される体のあちこちは血で赤く染まり、血は巨体が大きく左右に振られる度に辺りに飛び散った。怪我をしているようだ。かぶり付いて離さない頭に目をやると、詩季は一瞬呼吸を忘れた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加