封筒の差出人

3/5
前へ
/50ページ
次へ
学校に着くまでが、いつもより長く感じた。 下駄箱。そっと開ける。今日は何も入っていない。 急いで理科準備室に向かう。 「先生っ!」 「…びっくりした。勢いよくドアは開けないでください。…おはよう。今日は早いですね。」 先生はコーヒーを片手に、雑誌を読んでいた。 相変わらず整頓されていない、雑誌だらけの部屋は、淹れたてのコーヒーの香りがただよっていた。 「先生!聞いてくださいよ!」 「はいはい、わかったから落ち着きなさい。…コーヒー飲みますか?」 「はい!ミルク多目で!」 はいはい、と先生は棚からコーヒーカップを一つ取り出してコーヒーを注いでくれた。毎度思うが、ビーカーとアルコールランプでコーヒーを淹れるのはどうかと思う。 「こっちに座ってください。メールで済む用事じゃあないのですか?」 「…連絡するのは迷惑かと思って。奥さん、怪しむでしょ?」 「僕の心配ですか。僕はそんなにドジじゃあないですよ。」 すぐやけどやケガをするくせに、この人は何をいっているんだ。 「それで、今日はどうしたんですか?」 「これなんですけど…。」 私は昨日の封筒を見せた。先生はそれをまじまじと見つめて「ラブレターですか。」と言って中身を見た。 「…これはずいぶんと狂信的ですね。僕宛てですか?」 「違います、私の下駄箱に入ってたんです。差出人の名前もないし、どうしたらいいかと思って。」 「ふーむ。特に気にする必要はないんじゃないですか?送り主の発想には狂気を感じますが、見守っていると言ってるわけですし、実害はないでしょう。忘れなさい。」 「そんなんでいいんでしょうか。」 「これが続くようでしたら、何か対策を考えましょう。…君が思い悩むようなこれは、こうしてしまいましょう。」 そういって先生は手紙を封筒ごとアルコールランプにかざした。手紙の端からゆっくりと火が付き、半分くらい燃えたら空のビーカーに入れた。 私はそれが燃え尽きるまでじっと眺めた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加