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「もし仮に今、俺がおまえに手を出したら、俺は捕まるんだよ」 「でも」 「でももクソもねぇよ。おまえはそういう年なんだよ。おまえはガキで、俺は大人。はい、終わり。わかったら帰れ」 「なんだよ、大人って」  まさしく子どもにしか言えない台詞を吐き捨てた年下の幼馴染みに、真尋はうんざりと溜息を吐いた。  憂がどう思っているかは知らないが、こっちだって相当に胸は痛んでいるのだ。誰だってかわいがっていた年下の子どもを傷つけたくはない。そう、子どもだ。十五才の。  若いよなと改めて真尋は思う。まだたったの十五才。十五のころの自分はなにをしていただろうかとついでに考えて、天を仰ぎたくなった。  十五のころの俺なんて、こいつのことで頭いっぱいだったころじゃねぇか。なんなんだ、じゃあ、やっぱり俺のせいかよ、こいつのこれは。  腹の底からじわじわと湧き上がってくる罪悪感に、もう一度「帰れ」と言おうとしたタイミングで、肩を押された。 「おい、こら、憂」  不意を突かれたとしか言いようがない。気がつけばベッドの上に押し倒されていた。覆いかぶさってくる幼い顔を見上げて、真尋はうんざりと名前を繰り返した。「憂」 「なぁ、真尋」  固い声に、アラームのような警告音が自分の内側で鳴り響く。 「憂」 「好き」  遮ろうとした真尋の呼びかけなんて聞こえなかったように、憂は続けた。 「真尋がなに言っても、俺は好きなんだよ。ずっと、ずっと好きだった」 「……憂、あのな」 「それに、俺、もう子どもじゃねぇよ」  ぐっと肩にかかる指先に力がこもる。真剣な瞳。真剣な声。  本気に本気で応えたとして、それになんの意味がある。なんの意味もない。少なくとも、憂にとってプラスなことはなにひとつ生まれない。そのあたりまえを理解しない。  ――だから、ガキなんだよ、おまえは。  舌打ちしたい気分で、真尋はその腕を取った。そのまま体勢を入れ替えて、状況を把握し切れていない顔に言い放つ。精いっぱいの大人の声で。 「俺に勝てるようになってから言えよ、そういうことは」
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