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3
「あ」
家を出たところで、同じく隣の家から出てきた憂と鉢合わせになって、真尋は首を傾げた。もう夜の十時だ。
「どこ行くんだ」
「コンビニ」
「付き合ってやる」
「俺、おまえのかわいい天使の憂ちゃんじゃもうねぇよ?」
「わかってるに決まってんだろ」
天使の憂ちゃんじゃなかろうが、高校生男子になってようが、夜道をひとりで歩かせる気には真尋はなれない。
つい先日も、そんな心配をしてしまったばかりである。
――こいつ、顔だけはいいからなぁ。
いわゆる美少年というやつだ。天使から小悪魔に成り代わっても、顔面偏差値の高さは変わっていない。
「過保護」
憂の頭をかき回すと、「ガキじゃないっての」とますます拗ねる。まんまガキじゃねぇか。
しかたないと真尋は言葉を換えた。
「俺も買いてぇんだよ、煙草」
「なんだ。なら最初からそう言えよ」
あっさりと機嫌を直した顔になった憂が、ぴょんと飛び跳ねる。十代特有の身軽さが、目に眩しい。
「なぁ、真尋って、学校で眼鏡かけてんのって、童顔気にして隠してんの? それとも目つき悪ぃの誤魔化してんの」
「両方」
「でも、たしかにその格好だと真尋、先生になんて見えねぇもんな」
ヤンキーみてぇと笑う憂に好都合だとやり返す。なにが悲しくてプライベートの時間まで「先生」しなきゃならねぇんだということである。
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