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「じゃ、今は真尋でいいの?」
「っつか、おまえ、俺のこと一回でも先生って呼んだことあったか?」
「ない」
「おまえなぁ」
「だって、真尋は真尋だもん」
にこっと他意のなさそうな顔で笑われて、真尋は文句を呑みこんだ。
――弱いんだよなぁ、この顔に。
蝶よ花よ天使よとかわいがってきた名残なのか、真尋は憂が成長して小悪魔に変貌してからも、この笑顔に弱かった。
「なに買うの、おまえ」
「アイス。食いたくなった。あと母さんが私のも買ってきてって」
「あっそ」
「五百円もらった」
どこかうれしそうな横顔に、真尋はしみじみと呟いた。
「かわいいな、おまえ」
「違ぇよ。かわいいんじゃなくてかっこいいんだよ」
「あー、はい、はい。たしかにかっこよくもなったよ、おまえ」
さすがにもう女の子に見える年じゃない。褒めてやったのに、憂の声のトーンが下がった。
「真尋はさ」
「あ?」
「俺の顔好きだったんだろ?」
「だから。やめろっての、その話」
「いいじゃん。天使ちゃんっていうくらいなんだから好みだったんだろ?」
「あのな。さすがに五才の幼女を――いや、まぁ幼女じゃねぇか、まぁいいや、とりあえずそんな子どもを見てな、かわいいとは思っても好みだとは思わねぇよ」
俺をそんなに犯罪者にしたいのか、おまえは。呆れ顔でぼやくと、憂は「そういうんじゃねぇけど」とらしくなくもじもじしている。
身に染み付いた習性で、真尋は「まぁ」とフォローするように続けた。
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