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「あいつ、コンビニに用があったんじゃねぇのか?」 「真尋にビビったのかな」  真顔で問い返されて、真尋はその顔を凝視してしまった。「マジか」 「いや、俺は怖くねぇけど。ほら、その、なんだ。無意味におまえにビビるやついるじゃん」  妙に焦って言葉を重ねてくる幼馴染みを見つめているうちに堪え切れなくなって、真尋は吹き出した。 「なに笑ってんだよ、真尋」  憤慨した声に、「悪い、悪い」と繰り返す。 「いや、おまえはそうだよなって思っただけだよ」 「はぁ? なにが」 「なんでもねぇよ。最近ずっと地味眼鏡だの眼鏡だのしか言われてなかったから」  第一印象最悪の見た目を忘れていただけだ。告げると、憂が眉間にしわを寄せた。 「っつか、そっちは腹立たねぇわけ? その、地味眼鏡ってやつ」 「あー」  こみ上げてくる笑いを押し込んで、憂の頭をわしゃわしゃと撫でる。 「ま、代わりにおまえが怒ってくれてっからな」  なんとも言えない顔で黙り込んだ憂から手を離して、帰るぞと誘う。あまり遅くなると憂の母親を心配させてしまう。  夜の風はまだ冷たかった。アイスが恋しくなる季節はもう少し先だと思うのだが、これも一種のジェネレーションギャップなのだろうか。ガサガサと袋を揺らしながら歩いていた憂が、思い出したように口を開いた。 「俺、真尋の顔好き」  いささか唐突なそれに、首を傾げる。 「ふつうの顔だろ。おまえみたいなきらっきらしたご尊顔と違って」 「ううん、好き。世界で一番好き」 「あっそ」 「だから隠してんのもったいねぇなって思うけど、俺だけの秘密にしときたいとも思う」  最近のガキの美的センスはわかんねぇなぁと思いながら、真尋は「あっそ」と同じ相槌を繰り返した。  見た目でビビられたことを気にしているとでも思っているのだろうか。それとも。  ――これも刷り込みだったりしねぇよな。  その、なんだ。こいつがチビのころに、かわいい、かわいい。俺のこと好きになれって呪いみたいに囁き続けていた、あれ。  もしタイムトラベルなんてものができるなら、紫の上計画とかなんとかふざけたことを言っていた厨二な自分を殴りたい。真尋は常々そう思っている。 「なぁ、憂……」 「だから、地味眼鏡でいいわ」  前を向いたまま淡々と言い切った憂の横顔を眺めていると、自分の杞憂が馬鹿らしくなった。 「あ、っそ」 「あっそ、あっそってそればっか。真尋、マジ冷てぇ」  冷たくねぇだろと言う代わりに、真尋は小さく笑った。適切な距離感ってやつだろ、このくらいが。
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