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「なぁ」
「あ?」
「真尋の部屋、行っていい?」
家の前で憂にねだられて、真尋は即座に却下した。
「だめ」
「なんでだよ」
「おまえが生徒のうちは、だめ」
「さっきと言ってること、違いすぎだろ。プライベートなんじゃねぇの」
「おまえが分けられねぇからだめ」
そう言うと、むっとした顔で押し黙る。思い当たる節はあるらしい。
「おやすみ」
駄目押しで続ければ、不承不承の顔ながら憂は頷いた。その顔に向かって、真尋はひらりと手を振った。
「見ててやっから、先、家入れ」
「……おやすみ」
ふてくされながらもきちんと挨拶を返すあたり、いい子に育っている。自分の実績ではまったくないが。憂の家の玄関が閉まったのを見届けてから、真尋は小さく息を吐いた。
――なんであいつは、ああやってかわいいようなことばっかり言うんだろうな。
ちゃんとしてやろうと思ってんのに、ついつい甘やかしてやりたくなる。
いつまでも、そんなことはしてやれないとわかっているはずなのに。
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