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「でも」 「でも、なんだよ」  問い直すと、言いよどむようにうつむいていた憂が顔を上げた。 「だって、俺がキスしてから、真尋、部屋に入れてくれなくなった」 「……なんのことだ? 記憶にねぇな」 「嘘吐け。今、真尋、視線外して髪の毛触った。それ、おまえの嘘吐くときの癖なんだよ」 「なんだ、おまえ。気持ち悪いくらい俺のこと見てんな」 「悪いかよ」  笑ったのに、憂は笑わなかった。 「真尋のことが好きだから、ずっと見てたんだよ。だから知ってるんだよ」 「わかった、わかった。おまえが俺のことを兄ちゃんとして好きなのはよくわかった。だから、ほら帰れ。もう半になるぞ」  言いざま、真尋はスマホで時間を確認してみせた。 「ほら、憂」 「またそうやって、なかったことにすんのかよ」  跳ね上がった語尾に、溜息を呑みこむ。面倒なことになったと思った。 「憂、あのな」 「あのときだって、起きてただろ」  宥めようとした呼びかけを完全に無視した糾弾に、先ほどの自分の判断を真尋は悔やんだ。半までだなんだと甘い顔を見せずに、すぐに追い返せばよかった。かわいそうになって突き放せない、なんて。俺の都合でしかない。  ――それに、こんな話して、なんの意味があるんだよ。  なんの意味もないし、誰の得にもならない。それが理解できないから、こいつはガキなんだ。  あのときってなんだよとは真尋は聞かなかった。それが答えだと憂は思ったかもしれない。
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