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「こら。いつまで残ってんだ。早く帰れ」
下校時間を過ぎても教室に居残っていた女生徒たちに声をかけた途端、よくぞそこまでと言いたくなる嫌な顔をプレゼントされてしまった。
なんだ、こら。こっちはその机の上に広がってる化粧品と教室のコンセントとスマホを繋いでいる充電コードには気づかないふりしてやってんだぞ。
「もう下校時間過ぎてるぞ」
駄目押しすれば、「あー、はい、はい」とかわいげのかけらもない返事。
「マジうざいんだけど、こいつ」
「ねー、最近あの眼鏡ピリピリしてるよね」
「わかる、わかる。地味顔だから余計なんか怖いっていうか」
「オタクほどキレたらヤバいって言うもんねー」
こっわーい、気をつけよー、などと好き勝手に喋りながらだらだらと机の上を片付け始めたのを、我慢比べの心境で真尋は待った。
なんだ。ヤンキー顔なら黙ってビビられて終わりだが、オタク顔だとこうやってディスられんのか。どっちもどっちだな。
というか人を見た目だけで判断すんな。うちのかわいい憂ちゃんを見習えってんだ。ごく自然に思ってしまって、真尋は固まった。
なにがうちのかわいい憂ちゃんだ。アホか、俺は。
いつまで経っても時間薬が効いていないのは、まちがいなく自分のほうだった。出て行った生徒たちを見送って、溜息まじりに施錠する。
なんだかなぁ、としか言いようがない。こういうときは酒を飲んで現実逃避を決め込むに限る。明日以降に回せる仕事はぜんぶ後回しにしようと決めて、真尋は見回りを再開した。
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