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 ――っつか、マジで性別ないっつうか、美少女にしか見えなかったんだよなぁ、あのころの憂。  そう、真尋は回想する。  出逢ったころの憂は、本当に天使のようなかわいさだった。  真尋がはじめて憂と出逢ったのは、真尋が中学一年で憂が五才の冬だったわけだが、真尋の実家の隣に越してきた憂は、なんというか、もうはちゃめちゃにかわいかった。  憂の母親お手製のぴらぴらした服を着て、にこにこと愛らしい笑顔を浮かべながら、「お兄ちゃん」と真尋の後ろをついてくるところなんて、もう天使なんじゃねぇのと疑うレベルでかわいかった。  ガラが悪い目つきが悪いなんか怖い。などと周囲から評されるうちにグレたという典型的不良パターンだった真尋に対しても、分け隔てない笑顔を向ける天使がかわいくないわけがない。  そんなわけで、絶賛反抗期のクソガキだった真尋も会って三日で陥落した。  天使と戯れるためには夜遊びなんてもってのほか。学校が終われば即帰宅。規則正しい行動パターンを実践しているうちに、いつしか夜遊びからも完全脱却、なんやかんやで真尋は不良を卒業した。  そうして今や高校教師である。真尋の母親に至っては、息子がまともな高校に合格した際も隣家に向かって五体投地せんばかりの喜びようだったし、なんならそこから十年近く経った今も憂のことを猫かわいがりしている。  息子が更生したのは、隣家の憂ちゃんのおかげ、だそうだ。まぁ、否定はしない。  にこにこ笑顔で「もう、本当に憂ちゃんさまさまだわぁ」と当時七才の憂に、餌付けという名のクッキーを与えていた母親に便乗して、真尋も「憂、将来お兄ちゃんと結婚するか?」なんて言っていた。悪夢だと今なら思うが、あのころの真尋は夢いっぱいだったのだ。  真尋の問いかけに、憂も満面の笑みで応えてくれた。 「うん。憂、お兄ちゃんと結婚する!」  おまけに頬にちゅっとキスまでしてくれた天使に、あーマジかわいいやべぇと真尋は悶絶した。なにこの生き物、マジかわいい。  今は犯罪でも、十年後には二十四才と十七才。十五年後には二十九才と二十二才。よし、大丈夫だ。ぜんぜんいける、などと真尋は考えていた。  天使ときゃっきゃ戯れる息子を、なんとも言えない顔で見つめながらも、なにも言わなかった母親の心のうちが今ならわかる。  というか、その一年後に真尋は知った。今の今まで将来の嫁だと信じていた幼馴染みの性別が男だったという衝撃の事実を。
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