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――なぁにが、「だってぇ、そのこと知ったらあんたがまたグレちゃうかもしれないって思ったからぁ」だ。あのクソババァ。おもしろがってただけじゃねぇか。
男相手に夢を見ていた自分はどぶ川に放り込んでやりたくなったが、自分に懐いている幼馴染みは同性であってもかわいかったので、その後も真尋はそれなり以上にかわいがってきた。
それも、大学進学を機に実家を出るまでのあいだではあったけれど。
――だから、もう忘れてると思ったんだけどなぁ。
その予想は完全に外れた。就職して戻ってきた真尋に、憂はまったく変わらない調子で話しかけてきた。対面したとき、真尋は態度にこそ出さなかったが驚いた。
子どもの四年って、でけぇなぁ。天使のようだった中性的な風貌は美少年に進化していて、身長も真尋よりは低いものの随分と高くなっていた。
中身の小悪魔さ度合いにも、拍車がかかってはいたが。
幼少期のおまえの天使な中身はいったいどこに消えたんだ。そう思わなくもないが、憂が小生意気になり始めたのは小学校中学年くらいのころだった。つまり、小生意気な時期のほうがずっとずっと長いのだ。天使だったころなんて、夢のまた夢。記憶の彼方。
今となっては、ただのクソ生意気な弟分だ。とはいえ、かわいくないわけではないのだが。だが、しかし。
出て行ったばかりの憂の顔が思い浮かんで、真尋は小さく息を吐いた。
――高校生になったっつうのに、口を開けば「真尋」、「真尋」って。さすがにおかしいだろ。
近所の兄ちゃんにくっついて回るのが楽しい時期なんて、とうの昔に終わっていてしかるべきなのに、あの幼馴染みにはそれがない。
おかしいだろうと言うのは簡単かもしれないが、その「おかしい」原因が過去の自分の挙動にあるような気がしてしまうと、どうとも口を出しづらい。
つまるところ、それがこの一ヶ月の真尋の憂慮なのだった。
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