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 下校時間を過ぎても残っている生徒に声をかけながら校内を見回っていた足が、特別棟の三階の廊下を曲がろうとしたところで止まった。 「あの、私、入学したときからずっと春野くんのことが好きで、だから、その、付き合ってもらえないかな」  緊張に震えた細い声。マジかと真尋は遠い目になった。告白するならどこか違うところでやってほしかった。なにが悲しくて、幼馴染みが告白されている場面を覗き見なければならんのだ。  ――しかし、やっぱモテんだな、あいつ。  まぁ、あいつもそういう年だもんな、と真尋は思い直した。おまけにあの顔だ。性格だって、クソ生意気だとは思うが悪いわけではないだろうし。モテるのは当然なのかもしれない。  しみじみとしたものを覚えながら、続きを待つ。ちらりと覗くと、顔を真っ赤に染めた少女と幼馴染みの背中が見えた。  憂の好みなのかどうかは知らないが、かわいい顔の少女だった。  ――まぁ、でも、高校生なんてやりたい盛りだろうからな。見た目が許容範囲内だったらオッケーするんじゃねぇの。  根の真面目な幼馴染みが聞けば、「これだから元ヤンは」と眉をひそめそうなことを考えながら、憂の返事を予想する。  好き好んで立ち聞きをしたいわけではないのだが、この階の施錠を確認しないことには見回りが終わらないのだ。いまさら立ち退いたところで足音で勘づかれかねないし。  しかし実際どうするんだろうな、と真尋はもう一度考えてみた。  もし本当に憂が告白を受けたとしたら、昼休みにわざわざ自分のところにやってくることもなくなるだろう。  そう思うとほっとするのに、どことなく寂しい。なんだかなぁと真尋はひっそりと首を捻った。  兄貴離れしてしかるべきだとわかっているのに、いざその未来が近づくと落ち着かない。これも一種の兄心というやつなのだろうか。
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