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「おーい、春野」  どうせもうバレただろうと割り切って近寄ると、気まずそうに憂が振り返った。 「なんだよ。覗き見かよ、趣味悪ぃな」 「好きで覗いてたわけじぇねぇっつの。というか、おまえ」 「……なんだよ」 「いや、ひでぇ振り方すんのなと思って」  そう言うと、バツの悪い顔で憂がぼやいた。 「でも、俺にその気がねぇんだから。はっきり振ってやったほうがよくね? お互いのために」 「あぁ、まぁ、な」  そういう考え方もあるだろうし、優しく振ったら振ったで女の子は諦めきれないかもしれないが。いや、でもそれにしたって。 「かわいそうだろ、泣いてたじゃん」 「なんだよ。じゃあ泣かさないために受け入れろって?」 「いや、そういう話じゃなくてだな。物は言いようっつう話で」 「真尋は適当に優しくしてお茶濁しそうだもんな」 「どういう意味だ、こら。それから新崎先生な、新崎先生」 「ほら、そうやってはぐらかすだろ。でも、俺は違う。少なくとも本音で答えてるんだよ。それでどう思われようとも」  なるほどなぁとは思った。いかにも根がまっすぐな幼馴染みらしい。敵を量産するような生き方をしなくてもいいだろうにとも思ってしまったが。 「それが春野なりの誠意だって話か?」 「俺はな」  暗におまえはどうなんだと問われた気分になって、真尋は「えらい、えらい」と努めて軽く受け流した。 「なんだよ、それ」 「だからえらいって言ってんだよ。えらいけど、まぁ、それにしても、もうちょっとオブラートに包んでやってもいいんじゃねぇのって先生は思うけどね」 「でも」 「それで四面楚歌になったら馬鹿らしいだろ。そういうおまえの優しさをわかってくれる人間ばっかりじゃねぇんだから」  あと三年人間関係変わんねぇんだぞと言えば、憂は不服そうな顔で黙り込んだ。
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