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「早く帰れよ、下校時間過ぎてんぞ」  答えない憂に構わず、真尋はその横を通り抜けた。こいつらのおかげで、この階だけまだ点検ができていないのだ。 「でも、真尋はわかってくれんじゃん」  なぜか足音がついてきている。帰れって言っただろうが。カルガモの雛かおまえは。言いたいのを堪えて、おざなりに応じる。 「俺がわかっても意味ねぇだろ。それから新崎先生な。何回言ったら覚えるんだ、おまえは。っつか、帰れよ」  ひとつひとつドアを開けて誰もいないことを確認して、再施錠。窓の鍵もチェックし終えたところで、諦めて真尋は振り返った。無言でついて回っていた幼馴染みは、なぜか拗ねた顔だ。 「先生、もうここの点検終わったんだけど」 「……」 「いつまでついてくんの、おまえ」 「真尋は」 「だから先生って呼べって言ってんだろ、先生って」  あと何回言ったら改めるんだと思いながら、真尋は自分のために繰り返した。その牽制を完全に無視して、表情同様の拗ねた声が問う。 「真尋は、俺に彼女とかできても嫌じゃねぇの?」 「あー……」  言葉を濁した真尋に「嫌じゃねぇの」と憂が畳みかける。  ――いや、「嫌」っておかしいだろ。寂しいような気がする、とかならともかく。 「だって、俺、真尋の天使ちゃんだろ?」 「春野」  斜め上に逸れた話に、真尋は唸った。 「頼むから、学校でそれを言うな。マジで頼むから」 「じゃあ、真尋が俺のことちゃんと『憂』って呼んでくれたら」 「学校の外でな」 「そんなこと言って。真尋、ぜんぜんこっち戻ってきてから遊んでくれねぇじゃん」 「あのな」  真尋はあえて呆れたように言った。 「年考えろ、年。おまえももう十五だろうが」  五才や七才の子どもじゃあるまいし、同世代のお友達と遊ぶのが楽しい時期のはずだ。  同じような年ごろに五才児と遊び倒していた自分が言っても説得力はないかもしれないが。
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