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 あー、やっと今日も半分終わった。つっても、まだあと半分あるけどな。  購買や学食に向かう生徒たちの波に逆らって廊下を進みながら、新崎真尋は溜息を呑みこんだ。  なんでこいつらはこんなに元気なんだ。俺の授業中は死んだ魚のような目で黙りこくっているくせに。  煙草でも吸ってリフレッシュしたいところだが、高校は全面禁煙である。  ――わかっちゃいたけど、楽な仕事じゃねぇよなぁ。高校教師って。  着任して一ヶ月。定時で帰宅できたことは一度もない。というか、そもそも教師の定時って何時なんだ。六限目が終了した時点なわけがない。ということは部活終了ラインの十七時半か。いや、それもねぇな。  よくわからなくなってきた思索を放棄して国語準備室のドアに手をかけたところで、真尋は天井を仰いだ。きゃぴきゃぴと高い先輩教師ふたりの声に、聞き慣れたのんきな声。  半分以上わかっていたことだが、今日も居座ってやがる。 「おっせーよ、真尋」  無の境地でドアを引いた瞬間、予想どおりの文句が飛んできた。 「春野」  こめかみを押さえて、ちゃっかりと自席を陣取っている生徒に視線を向ける。 「だから、真尋じゃなくて新崎先生って呼べっつってるだろ」 「すげぇ違和感あるから無理。笑う」 「無理じゃねぇよ、慣れろ。それと昼飯くらい教室で食え。なんだおまえ友達いねぇのか」 「違う。そうじゃない。真尋と食いたいだけ」 「だから、新崎先生だって言ってんだろ、馬鹿か」 「真尋こそ、もしそれが教師の口調だって思ってんならアウトだからな、その暴言」  おまえ以外にはこんな喋り方しねぇよと言う代わりに、真尋は黙り込んだ。  我が物顔で椅子を占領したまま、春野憂がにんまりと口角を上げた。小憎たらしいのに抜群に整った顔のせいで絵になっているのが、また腹立たしい。
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