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「あ」  家を出たところで、同じく隣の家から出てきた憂と鉢合わせになって、真尋は首を傾げた。もう夜の十時だ。 「どこ行くんだ」 「コンビニ」 「付き合ってやる」 「俺、おまえのかわいい天使の憂ちゃんじゃもうねぇよ?」 「わかってるに決まってんだろ」  天使の憂ちゃんじゃなかろうが、高校生男子になってようが、夜道をひとりで歩かせる気には真尋はなれない。  つい先日も、そんな心配をしてしまったばかりである。  ――こいつ、顔だけはいいからなぁ。  いわゆる美少年というやつだ。天使から小悪魔に成り代わっても、顔面偏差値の高さは変わっていない。 「過保護」  憂の頭をかき回すと、「ガキじゃないっての」とますます拗ねる。まんまガキじゃねぇか。  しかたないと真尋は言葉を換えた。 「俺も買いてぇんだよ、煙草」 「なんだ。なら最初からそう言えよ」  あっさりと機嫌を直した顔になった憂が、ぴょんと飛び跳ねる。十代特有の身軽さが、目に眩しい。 「なぁ、真尋って、学校で眼鏡かけてんのって、童顔気にして隠してんの? それとも目つき悪ぃの誤魔化してんの」 「両方」 「でも、たしかにその格好だと真尋、先生になんて見えねぇもんな」  ヤンキーみてぇと笑う憂に好都合だとやり返す。なにが悲しくてプライベートの時間まで「先生」しなきゃならねぇんだということである。
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