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「最近、春野くん来なくなっちゃいましたねぇ」
ドアが開くたびに、ぱっと顔を輝かせてあからさまに落胆する、ということを繰り返していた相原が、昼休み終了五分前になってとうとう口に出した。
準備室には相原のほかに自分しかいなかったので、しかたなく真尋は返事をした。
「友達でもできたんじゃないですか」
「そんなこと言って、新崎先生寂しいんでしょ?」
「そんなことないですよ」
そんなことはない。本心から真尋は言った。それが正常なはずだ。いじめられているわけでもないのだから、昼休みは友達と過ごしたらいい。
そうして兄離れすればいい。もう夏だ。高校一年生の夏休みなんて、楽しいことしかねぇだろ。せいぜい青春楽しめよ。
俺の高一の夏なんて――……。
あらぬことを思い出しそうになって、真尋は心底自分にうんざりとした。記憶の蓋を開ければ、悲しいくらいに自分のなかの思い出は憂一色だ。
真尋のかわいい天使じゃなくなってからも、ずっと。
――真尋、夏休み一緒にたくさん遊ぼうな。
あのころの憂は、真尋のことを「お兄ちゃん」とは呼ばなくなっていた。無垢な愛らしさは消えて、小生意気なことばかりを言うようになっていた。でも、まぁ、かわいかったけどな。
ほかの誰が真尋のことをどう評そうが、憂だけは真尋のことを好きだと言った。特別だと言った。
その程度のことと言われるかもしれないが、真尋にとってはたいしたことだった。
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