あの子が捨てたモノ

1/2
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

あの子が捨てたモノ

「あの子、いなくなっちゃったんだって!」  店員のいらっしゃいませという大声、注文をするお客、確認の為繰り返す声…。居酒屋の喧騒の中で、その言葉だけは妙にクリアに響いて聞こえた。中学時代から噂好きで有名だった千珠(ちず)のもたらした情報で、そこからはその話題で持ち切りだった。 「ええっー?だってまだ子どもたち小さかったよね?」 「上の子が二年生で、下は年長さんだって。でもね、いなくなったの最近でもないらしいよ?出て行ってもう三年になるんだって。」 「えっ?じゃあ、前の同窓会の時には…もう?」 「らしいよぉ。水島くん本人に聞いたから間違いない。」 「で、原因は?何で?やっぱりアレ?」 「うん、ヒナの浮気みたい。」  わぁ、とか、えぇーとか、みんなが上げた声と、隣室の歓声が重なり耳がキーンとなった。  あの子といっても、三十歳前のいい大人だ。みんな三十歳を目前にしていても、こうして同級生で集まったら心は中学時代に戻っているのかもしれない。  あの子、同級生の川上陽菜乃(かわかみひなの)は、水島くんと子どもたちを置いて、どこへ行ってしまったというのだろう?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!