花火の記憶

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 ――もっと楽しい気持ちでこの浴衣を着られたはずなのに…。  母に着付けをしてもらい、姿見で全身を確認しながらそう思っていた。こんな事なら、別に新しい浴衣なんて必要なかったのに。  そんな思いを抱えたまま出かけた花火大会だったけど、その日は平原くんのおかげで、想像していたよりもずっと楽しかった。  クラス一のモテ男子と並んで歩く緊張感は最初だけだった。浴衣姿を「似合うね」と褒めてもらったり、履き慣れない下駄の私を気遣ってくれたりした。平原くんの整った横顔を見ながら、女子に人気があるのも頷けるなぁと思っていた。  ――ヒナは、平原くんが好きなんだとばかり思っていたのに、違ったの?私が水島くんばかり見ていたから、気付かなかっただけ?  人混みの中を歩きながら、平原くんが「この間ボーッとしてたら上履きのまま校門を出てた」なんて失敗談を披露してくれて、二人して笑っていた時だった。 「あ…」 「あ…」  会いたくないと思っている時にはどうして出会ってしまうんだろう。二人同時に反対側から歩いてきた水島くんと陽菜乃の姿に気付いてしまった。楽しそうに笑っている水島くんの横には、白地に朝顔の柄の浴衣姿の陽菜乃がいた。  似た柄なのに地の色が違うだけでこんなにも違って見えるんだろうか?そうじゃない、着る人が違うから。陽菜乃の大人っぽい着こなしを見てしまったら、急に自分が幼く思えて嫌になった。
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