Geheimnis Ⅰ/Date…04/10/20**

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皺ひとつない真新しい制服。自分の背丈よりも少々大きく鏡に映る自身の姿は、見事に制服に着られていて大変に不格好だった。 「優丞(ゆうすけ)さん、よくお似合いよ。」 名門私立の校章が胸元で輝く制服は、伝統を重んじているからだとか、由緒正しい歴史ある学校だからだとか云う理由で、創立以来デザインが少したりとも変わっていないらしい。 本日より初等部の一年生となるまだ頼りない僕の背中に手を添えた女性が、鏡越しに嬉々とした笑みを湛えている。 「光栄ですお母様。」 その女性こそ、僕をこの無聊に満ちた浮き世に産み落とした母親だった。 「我が常盤(ときわ)家の人間らしい立派な出で立ちね。入学式には出席できないけれど、きっと貴方のお父様も大変に喜ばれるわ。お兄様のように、常盤家の者に相応しい身の振る舞いをしましょうね。」 母親の言葉に、この場にはいない父親と兄の顔を浮かべながら幾度目か分からないその話を早く終わらすべく、僕は黙って首を縦に振った。 僕の行いなど、父も兄も関心がないに決まっている。 世継ぎでない運命が既に定められている僕に与えられた生きる道は、名家と謳われるこの常盤家の顔に泥を塗るような事がないよう注意をして淡々と日々を送る。それだけだった。
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