酔い心地、夢心地、宵の口。

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 間もなくして、個室の白熱灯が明かりを取り戻す。 「明る~い」 「電力、復活!」 「復活記念、バック転!」 「キャーーー、テッちゃん!」 「ここでしないで、天井低いから!」  カウンターでは、千鶴を除いた五人の客が、停電を機に打ち解けている様子が伺えた。  便座付近に散らした吐瀉物をトイレットペーパーで拭き取りながら、壁に掛けられた姿見に写し出された自身の姿を千鶴は確認する。嘔吐による涙目でマスカラは剥がれ落ち、唇の周囲はグロスの油とキザキの唾液がネチャネチャと混ざり合っていた。 「ブスだなぁ……」  永遠に停電していれば良かったのに。  自分以外の客の輪に入るのが億劫な気持ちも相まって、千鶴は重い足取りでカウンターへと向かった。
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