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何の悩みもなく飄々と生きているような幸次郎に、こんな過酷な過去があったなんて。安易に励ますことなどできないが、何か掛ける言葉がないだろうかと千鶴は考えあぐね、とりあえず名前を読んでみることにする。
「幸……」
「アンタも苦労してるんだなぁ!」
別の島で自分を中心に語っていたはずのテツヤが、唐突に割って入ってきた。
「テッちゃんの業界も、人気商売だもんね」
「さすが、分かってるなぁ、鎖骨!」
いつの間にか、呼称から『野郎』が外されている。
「旬の時期が短いアイドルを生業にしてきた俺としては、痛いほど分かるぜ。飽きられたら、ハイさようなら。古きを温めたところで、新しい物には叶わないのさ!」
飛んだり跳ねたり回転したり。いちいち動きが暑苦しいが、発言の内容は至極真っ当だ。
「アイドルなんて、ティッシュと同じさ。シワくちゃに使い捨てられ、次から次へと出てくる新品が股間にあてがわれ……」
「テッちゃん、下ネタに走ってる」
グラスを磨いていたキザキが、さりげなくテツヤの暴走を止める。
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