ポップコーン12世

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ポップコーン12世

 俺はついに、この世界を支配しせし者——魔王を討伐した。思えば転生から十余年。少年だった俺も勇者という名が良く似合う、無精髭の生えたおっさんとなっていた。 ◆ 「遂にやったんだな俺たち」  王都に程近い田舎町。帰りすがりに見つけた居酒屋で、仲間のうちの一人、ポップコーン12世はそう俺に笑いかける。  彼はポップコーンのような白髪の、これまたおっさんだ。ただし、彼は王でもなければ貴族でもない。農民出の兵士である。 「ホント、やっとのやっとだよ」  俺はそうやって勝利の酒を堪能する。無論周りにいる十数人あまりの仲間もそうだ。 「それにしても……長かったなぁ、ここまでの道のり」  彼はそう言う。 「確かに、でもこれでこの生活ともおさらば、町での平和な暮らしを楽しみたいね」 「なんだい、もしかしてお前さん、何かやりたいことがあるんかい」 「ああ……そうだな、小さい頃からアイスクリーム屋さんになりたくてね、王都で店を開きたいんだ」  すると彼は目を見開いて、前のめりになって俺に訊いてきた。 「なんだいそのアイスクリームとやらは、あれか、またお前さんの言う転生前の世界のものか?」 「……ああ、そうだ」  俺がそう答えると彼はおもむろに、メモと万年筆を取り出した。 「お前さん、その話、もうちょっとだけ詳しく訊かせてもらえんか」 「相変わらずマメだな。今日ぐらいゆっくりとさせてくれよ」  すると彼は、 「まぁ、そう言わずにね、ほらほんのちょっとだけでいいから」  俺を上目遣いで見ながら、そう頼む。まったく、これが綺麗なお姉さんだったら快く、訊かれていない事まで話しちゃうのにな、俺はそう思う。だがしかし、これでも俺はあまり断れない性格。なんだかんだで知っている限りの事をいつものように彼に話し込んだ。  一通りを話すと彼はこう言った。 「いつも有用な情報をありがとさん」 「……って、まさか俺に対抗してアイスクリーム屋さんを開こうとか思っていないよな」  冗談交じりで訊くと彼は笑った。 「さすがにお前さんの不利になるようなことはしないよ。むしろ、店を開くときには手伝いたいほどさ。なにせ、お前さんが転生前にいたっていう世界をもっと知りたいからね」 「ぬかりがないな……あっ、もしかしてあれか、実は何かの研究者だったりするとかか?」  これまた冗談で訊くと彼は驚いた顔をした。 「なんだ? 本当にそうなのか?」  改めてそう訊くと今度は彼は笑った。 「あはは、違うよ。だいたいずっと一緒に魔王討伐をして来た仲間じゃないか」 「ああ……そうだよな。変な勘ぐりを入れて悪かった。今日は疲れたしちょっとだけ寝させてもらうよ」  俺はそう言うと、その場の居酒屋の席で、夢の中へと落ちていった。 ◆  とあるポップコーン頭の男は、さっきまで一緒になって話していた勇者が寝たのを確認すると、居酒屋を出て、近くにある鬱蒼とした森の中へと入っていった。  そして彼は周りに誰もいないことを確認し、ポケットから何やら小さいものを出すと、それはみるみるうちに大きくなり、薄っぺらいピンク色のドアとなった。  彼がそのドアをくぐると、そこは無機質な研究所のような場所であった。そして中には六十ほどにも見える一人の老人がいた。 「今日の成果はどうだったか?」  老人はポップコーン頭の男が来たのを確認するとそう訊いた。 「ああ、今日はアイスクリームというものについて詳しく知れました」 「はあ、そりゃあ頼もしい」 「それにしても博士、どうして研究のために、NPCを大量に使ってまでしてあの世界を作ったのですか? 正直、古代人文化を研究するだけなら蘇生させた彼からここで質問するだけでいいじゃありませんか」  ふと気になったことを、ポップコーン頭の男は老人に尋ねた。すると老人はこう答えた。 「大昔にはそうやっていたんだよ。だが、私たちのことを知ると、怖がってそれ以降は何も話してくれなかった。だから今回は、数少ない資料の中から彼が生き生きと生活出来る世界を作り、君には自然に古代人文化のことを訊き出してもらった訳だ」 「はあ、なるほど……確かに彼らからしてみると、寿命がきてもまた蘇る私たちのことは、恐ろしく感じるのかも知れませんからね」 「まあ、かくいうその彼らは、私たちが蘇らせた者達だがな」  そう老人が言うと笑った。するとポップコーン頭の男は、 「博士、そう言わないでくださいよ。火葬されず、綺麗な状態のままの古代人は少ないんですから。それに、私たちの勝手で彼等のことを蘇らせたのですから」  そう言って、老人にそう優しく咎めた。    『古代人研究所』  彼等は、死者を蘇生させる技術が無かった時代の文化や食生活を詳しく解明する研究を、今日も続けている。
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