零細派遣会社

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零細派遣会社

 中3の1学期の終わり、梅雨の合間の猛暑日に僕は学校を休んだ。  というか無理やり母さんに休ませられた。  そして連れてこられた場所が、繁華街の外れにある雑居ビルの一室。バーやスナックが連なる通路の端にある事務所だった。  名前は『レイサイハケン』。  僕の問題で悩みに悩んだ母さんが、ありとあらゆる方面に相談したあげく、紹介されたのがここだったんだ。 「零細な派遣会社なのかな。ヘンな名前」  思わず呟いたら母さんに睨まれた。 「助けてくれるなら、名前なんてどうでもいいのよ」  その思いつめた顔に、ちょっとたじろいだ。  でも名前だけじゃなく入り口の雰囲気はもっと怪しかった。  民芸品か宗教儀式で使われるような道具が、幾つもぶら下がっているし、通路には謎の記号が描かれた石が点々と置かれていて、占いの館かカルト教団の住処といった空気を醸し出している。 「悪徳商法だったら大変だよ。帰ろうよ」 「そんな訳にはいかないの! 」  そう言いながらノックをする母さんの目は、かなり据わっている。  僕は諦めた。
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