2人が本棚に入れています
本棚に追加
零細派遣会社
中3の1学期の終わり、梅雨の合間の猛暑日に僕は学校を休んだ。
というか無理やり母さんに休ませられた。
そして連れてこられた場所が、繁華街の外れにある雑居ビルの一室。バーやスナックが連なる通路の端にある事務所だった。
名前は『レイサイハケン』。
僕の問題で悩みに悩んだ母さんが、ありとあらゆる方面に相談したあげく、紹介されたのがここだったんだ。
「零細な派遣会社なのかな。ヘンな名前」
思わず呟いたら母さんに睨まれた。
「助けてくれるなら、名前なんてどうでもいいのよ」
その思いつめた顔に、ちょっとたじろいだ。
でも名前だけじゃなく入り口の雰囲気はもっと怪しかった。
民芸品か宗教儀式で使われるような道具が、幾つもぶら下がっているし、通路には謎の記号が描かれた石が点々と置かれていて、占いの館かカルト教団の住処といった空気を醸し出している。
「悪徳商法だったら大変だよ。帰ろうよ」
「そんな訳にはいかないの! 」
そう言いながらノックをする母さんの目は、かなり据わっている。
僕は諦めた。
最初のコメントを投稿しよう!