空飛ぶ人魚症候群

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カワイー! 東京のどこに住んでたの?! 制服可愛いね! 前の学校の制服?  色白! 読モみたい! 昔はこの町に住んでたってマジ?! 俺の頭の上を通過する、雪乃への質問の数々。 田舎町のこの学校は、幼稚園からの顔見知りだらけで、日常に変化が乏しい。 団結力は強いが、アホと、バカと、マヌケが仲良く十七年、同じ空間で生活し続けているので、デリカシーも何もあったもんではない。 俺は 『ああはなるまい』 と固い決意で、自分の席から立ち上がらなかった。 「ほら小弥太(こやた)! アンタも転校生ちゃんとおしゃべりしたいんでしょ!」 クラスのムードメーカー女子、七海(ななみ)が俺の背中を勢い良く叩いた。 「痛ってえな! 何すんだよ!」 痛みで勢い良く立ち上がった俺の背中を、七海はぎゅうぎゅう押して言った。 「『俺は皆とは違う』みたいなオーラ全開で、恨めしそうに氷水さんを見てんだから、気合い入れてやったのよ! ほら! 行く!」 俺は勢いに気圧され、雪乃の前に押し出された。 「うわっ!」 席に座ったまま、質問攻めにあっていた雪乃の横に立たされる。 「小弥(こや)ちゃん、昔よりずっと大きくなったねぇ、そんなに大きくなっちゃったら、もう『大弥(おや)ちゃん』って呼ばないと」 雪乃は、昔と変わらない笑顔でそう言った。 小弥ちゃんなんて呼ばれるのは、何年ぶりだろうか。
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