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「やったーっ! また私がいちばーん!」
五歳の頃の雪乃が、水しぶきを上げて水面から飛び出した。
悔しくて、思わず大声が出た。
「雪乃! もう一回勝負!」
五歳の俺は、ゴボウのように細い腕を伸ばして、人差し指を天に向ける。
「いいよ! でもその前にオヤツ食べてから!」
毎日のようにプールで泳ぐ俺達は、真っ黒に日に焼けていた。
日陰には雪乃のばあちゃんが座っていて、スイカや蒸しまんじゅうを作って待っていてくれた。
たった二年間。
二年の夏の間に、俺は雪乃に泳ぐ楽しさを教えてもらった。
雪乃は四歳から五歳の間だけ、この町に住んでいた。
だから幼稚園の頃からの同級生も、雪乃の事を知らない。
赤ちゃんの頃から居たわけじゃないから、産科がきっかけの母親同士の繋がりも無い。
第一、俺は雪乃の母親を一度も見たことがない。
雪乃と、雪乃の父親と、ばあちゃんの三人家族。
そのおばあちゃんが五歳の冬に亡くなって、同じ幼稚園に通うと思っていた雪乃は、いつの間にか町から姿を消していた。
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