オレンジのトリガー

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 また別の日 「ねぇもっちー?」「んー?」背中が呼ばれたので、少し振り返る。 「もっちーってバスケすごいんでしょ?さっきの体育見てたけどすごかったじゃん。初めて知った」 「いや、バスケ部だから上手くないとだめでしょ」 「入部したばっかりなのに3年生よりも上手いって松本から聞いたよ。関東の選抜メンバーだったって」 「昔の話な」 「またまたぁ、昔って言っても中3の話でしょうに。もっちーのかっこいいところもっと見たかったなぁ。体育祭のときみたいな」 「うわ、なにその露骨な上目遣い。下手。わざとらしい。下手」 「下手って2回も言った!」 「かっこいいだなんて微塵も思ってないだろ?」 「ミトコンドリアの大きさくらいには思ってるよ」 「0.5ミクロンとか思って無いに等しい」  0.5ミクロンであっても、かっこいいって言われるのはくすぐったい。その度にずるいと思う。こいつが上手いのは、冗談で相手を肯定すること。冗談であれば相手は本気にしない。でも褒められているから悪い気もしない。  けなさずに相手をおちょくり、なおかつ心地よくさせるスキルを身につけているこいつはつくづく頭が良いと思う。これが計算なのか、素でやっているかはわからない。どちらにしても気にしないけど。 「渡辺もバドミントンうまかったじゃん」 「なに、私のこと見てたの?恥ずかしいよぉ~」 「その語尾全然可愛くないよぉ~」 「アァ?」 「関東大会まで行ったって藤村から聞いたけど」 「なにそれぇ記憶にございません」 「ござるだろうが」 「ラケットぶん回してたら関東行ってた記憶はあるかも」 「脳筋かよ」  最近おこがましくも渡辺と付き合う妄想をするようになってしまった。すんごい楽しいカップルになる!とボヤボヤ曖昧に思うけど、こんなふうに会話を続けられている風景は浮かんでこない。不思議だ。  多分、渡辺の隣にいるべき人は俺じゃなくてもいい気がする。サッカー部の木村でも、男子バド部の後藤でもいいだろ。あいつらの方が賑やかだし。  でもこの席順の間は俺がこのポジションでいいよね。ばればれの秘密基地をばれないように隠すにはどうすればいいんだろう。
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