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第5話 ゴブリンが珍しがられるような物語
「だからこそ! そのゴブリンは本当に危険なんだ!」
「どこが危険なの?」
ゴブが危険だととにかく訴え続ける春男でしたが、コテンっと首を傾けて桃子が問います。桃子には危険というイメージがありません。
「君たちはゴブリンの性質をよく知らないからそんな事が言えるんだ。いいかい? ゴブリンはとても危険な魔物なんだ。一匹なら大人が数人で駆除できる程度でしたかないけど、徒党を組めば脅威度が一気に増す!」
「ゴブちゃんは一人だよ?」
「ゴブ~」
「……」
確かにゴブは今現在一人です。どうみてもそうです。徒党を組めばという前提条件があっさりと覆されました。
「いや、だから仲間がそのへんに潜んでるんだよ!」
「いや、そんなのが沢山いたら流石に今頃問題になってるだろ」
「なるなる~あ~し~ならそくネットにアップするし~し~」
赤也も冷静にツッコミました。確かに現代日本でゴブリンなどという生き物が大量にいたならば
隠れることは難しいでしょう。そして発見されればSNSですぐに拡散されるに違いありません。
「……い、1匹でもそこまで弱いわけじゃないんだよ! レベルだって5ぐらいはあるんだから!」
「ゴブちゃんレベルが5なの?」
「ゴブゥ~?」
「レベル5はないんじゃないか流石に?」
「赤也にはレベルが判るんらね~ね~」
「少しだけやったことがあるんだ」
「いや、だから何で君たちそんなに冷静でいるんだよ。ゴブリンだぞ? 未知の怪物なんだぞ?」
「う~ん、でも何か可愛いしね」
「うむ、私も春男のことは言えないが、しかし、今は少し、その、か、可愛いかな、と思えるようになったぞ」
黄切は最初に斬りかかろうとしたことはすっかり反省しているようです。
「うん、じゃあもう危険じゃないってことでいいよね~」
「まてまてまて! 納得いかん!」
「いや、何でだよ。もういいだろ春男」
「良くない! 大体、本当にゴブリンは危険なんだ! 特に女の子には!」
「どうして?」
「ゴブ~?」
桃子が再び聞きます。ゴブも何が何だかと言った様子です。
「そ、それは、ゴブリンが、エッチだからだ!」
「「「「「…………」」」」」
教室内に微妙な空気が流れました。
「へ~へ~お前~一丁前にエッチなんら~なんら~」
「ご、ゴブ……」
そして喫茶が胸の谷間を近づけながらゴブに語りかけます。ですが肝心のゴブは戸惑っています。
「エッチってことは雄ってことなのか?」
「そうだゴブリンは基本雄しかいないんだ!」
「雄しかいないのにどうやって増えるんだ?」
「だから、雄しかいないから! その、に、人間の女を掴まえて、え、エッチなことをするんだ」
「へ~へ~人間と○ックスするんら~するんら~こいつ面白いな~な~」
「いや、お前ストレートに言いすぎだろ……」
「せ、せせせせせせ、せ、せ、せぇええ! なんたるハレンチな! やはり成敗せねば!」
「いや、落ち着きなって黄切。春男が勝手にいってるだけなんだし」
黄切が菊一文字の柄に手をかけましたが吟子が止めました。目がぐるぐる回っていてパニックになってるようです。黄切はとても初な子なのです。
「とにかくいますぐ離れるんだ! ゴブリンは年がら年中発情期中の危険で妬ましいモンスターなんだから!」
「そんなことないもん。ゴブちゃんは大人しいしいい子だよ? 緑山くんどうしてそんなこと言うの?」
「え? いや、でも危険で……」
桃子がゴブを抱きかかえジト目で訴えます。春男は戸惑いました。
「いやいや、正直それもどうかと思うぞ? そんなに危険ならすぐに襲いかかってくるだろ」
「そうだよね~それに年中発情期なら、桃子が最初に押し倒されるなりしてたと思うし。まぁそんなことしてたら絶対許さないけど」
「たたっ斬るのです!」
「ご、ゴブッ!」
黄切の目が鋭くひかり、慌てて桃子の後ろに隠れるゴブでした。
「確かにゴブっちは~ちは~あ~しの胸を見ても何もしてこなかったし~し~。本当に発情期らったらありえないじゃん? じゃん?」
「お前またそんな……」
両腕で胸を寄せながら喫茶がいいました。確かに喫茶はその胸といい色気がムンムンと溢れ出しています。
春男の言うように常に発情期で見境ないならばとっくに襲いかかってきてもおかしくないでしょう。
「いや、でも! ゴブリンは!」
「春男の負けだな。俺もずっと見てたけど、そんなに危険な生き物にはみえなかったしな」
「そうだ! そんなに心配なら水に放り込んでみようよ! それで浮かんできたら無実だよ!」
「いや、それではまるで中世の裁判ではないか?」
「駄目かなぁ~? いい手だと思ったんだけどなぁ~」
「葵はとりあえず水か泳ぎに結びつけたがるな」
「いやいや! でもやはりそれは危険だ! 危険に決まってる!」
「ゴブ~……」
ゴブリンは危険だという持論を曲げない春男です。ゴブは何を言っているかは理解できていないようですが、雰囲気から何かを察したのか頭を垂れてどことなく悲しそうです。
「お~い、朝から何を騒いでるんだよ?」
「お~ほっほ。今日も庶民の皆様は騒がしいですわ~でも私は気に致しませんことよ~」
「……何か変わったのがいる」
「あれ? 本当だ。なんだよそれ」
すると、ぞろぞろとクラスに生徒が入ってきました。時計を見るともう良い時間になってました。登校してくる生徒が一気に増える時間です。
当然、ゴブリンを見た生徒は驚きます。そしてゴブを中心に人垣が出来ました。
皆初めて見るゴブリンに興味津々です。桃子が代表してゴブリンについて説明し、続いて春男がゴブリンがいかに危険かを訴えました。
「よくわかんないけど、危険なら保健所とかに連絡したほうがいいんじゃないか?」
「ひっど~い男子~どうしてそういうこというの?」
「そうよ可愛そうじゃない!」
「いや可愛そうって、モンスターなんだろ?」
「ゴブリンだって生きてるのよ!」
「それに、結構可愛いし、保健所なんて反対!」
「だったらどうするんだよ?」
「そんなの決まってますわ! 私が飼ってさしあげます!」
「ゴブ~……」
「ゴブちゃんは何かいやそうね」
「桜井が気に入ってる感じか?」
「どっちにしろこのままじゃ不味いだろ。先生来てしまうぞ」
誰かの発言に、そういえばと一様に時計をみました。確かにもうすぐ朝のホームルームの時間です。
すでにクラスの生徒にはゴブの存在が知られてしまってます。それでもほぼ全員がゴブに危険はないと判断してくれました。ですが、相手が先生となると話が変わってきます。
流石に教師がゴブリンを見て、何事もなかったようにホームルームを始めるとは思えません。職員会議などにあげられて問題になる可能性もありますし、最悪警察などを呼ばれてしまうかも知れません。
「どこかに隠した方がいいな」
赤也がいいます。確かにこのまま教室の目立つところにいてもらうわけにはいかないでしょう。
「でも、どこに隠すのよ?」
「あ、なら胸に挟んでおくし~し~」
「いや、いくら巨乳でもそれは無理でしょ」
ジト目で吟子がツッコミました。確かにゴブは小さいですが、それでも谷間に埋もれるほどミニサイズというわけではありません。
「……ここ」
すると、背中まである艶やかな黒髪が印象的な寡黙な女子、黒上 月姫が教室の用具入れを開けていいました。
なるほど、どうやらとりあえずこの中にいれておけばどうか? という提案なようです。用具入れは高校生が入るには厳しいですが、ゴブならなんとかなりそうです。
「ゴブちゃん狭くない?」
「ゴブ~♪」
用具入れに入れてもらったゴブですが、両手を上げ、妙に機嫌が良さそうです。
「何か喜んでないかゴブ?」
「ふむ、ゴブリンは元々暗い洞窟などを塒にする性質があるのだよ。故に、狭い場所の方が落ち着くのかも知れないのだよ」
「流石眼鏡らし~あ~し、見直したし~たし~」
「だから眼鏡じゃ……もういい」
「緑山くんありがとう」
そっぽを見いて眼鏡を直す春男です。桃子にお礼を言われたのが照れくさいようです。
「ゴブちゃん、ここでおとなしくしていてね」
「ゴブ!」
「もしかしてわりと私たちのこと理解してたりするのかな?」
「う~ん、しかしゴブリンとは奇天烈な生き物でありますな」
真剣な目で頷くゴブリンを見て不思議そうにする吟子と黄切でした。
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