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第7話 ゴブリンがお腹をすかせたような物語
そして四時限目の授業――英語の時間ですが、担任の聖子先生の受け持ち科目でもあります。
先生の授業が始まりました。
「アイ・アムアペン!」
「先生、何の授業してるんですか?」
「え? あ、間違えちゃった」
「何を間違えたらそうなるのよ……」
聖子はすこしドジなところがあります。気を取り直して授業は再開されました。
カリカリと黒板に響くチョークの音だけが静かな教室に鳴り響きます。とても静かです。
そんな中、ゴブは用具入れの中で眠ってました。鼻提灯を作り、ゴブゥ、ゴブゥ、と寝息を立てています。
すっかり船を漕いてしまっていますね。春男の言うように、狭いところはゴブリンにとっては落ち着く空間なのかもしれません。
このまま平和に四時限目も終わるのかと、そう思われたのですが。
――ぐ~~~~~~~~。
そんな腹の音が用具入れの中から聞こえてきました。勿論発信主はゴブです。
「え? 今なにかすごく大きなお腹の音がしなかった?」
再び聖子先生の頭に疑問符が浮かび上がりました。当然、生徒たちの顔にも緊張が走ります。
「なんで腹がなるんだよ……」
「きっとお腹が減ったんだ……そういえば飴玉しかなめてないもん」
こそこそと赤也と桃子が口にします。確かに桃子が発見してからゴブが口にしたのは飴玉一つです。もうすぐお昼になりますし、最後に食べた時間はわかりませんが、お腹が減っていたとしてもおかしくありません。
「た、大変だ! そうか、お腹がいっぱいだったから何もしてこなかったんだ! お腹が減ったら何するかわかったもんじゃないぞ!」
しかも、春男が急に勢いよく立ち上がり、そんなことを叫びだすから大変です。先生の目が丸くなりました。
「春男、この馬鹿!」
「眼鏡なにやってるし~し~」
「え~と緑山くん、何かあったの?」
「え? あ、いや――」
全員の冷ややかな視線を受け、春男がキョドり始めました。メガネを直し明らかに焦っています。
失敗したなという感情が顔にありありと現れてました。
「お、お腹が減ったな~~! すっごいお腹が減ったな~」
そこへ立ち上がった一人の生徒。石塚 灰児はクラス一の巨漢としてしられます。身長だけなら赤也の方が高いのですが、彼は幅がとても広いのです。
そしてよく食べることでも有名で、巨漢であると同時に大食感としても知られています。そしてクラスで1番ご飯を美味しそうに食べる男子でも栄光ある1位を獲得しており、将来の夢はグルメリポーターです。
――ぐ~~~~……。
そして再び腹の音。これは当然ゴブによるものなのですが。
「おっとまたお腹が鳴ってしまったな~本当早くお昼が食べたいな~」
皆の視線が灰児に向けられます。すっかり尊敬の眼差しです。今この場で彼は勇者でした。心なしかキラキラと光り輝いているようにも見えます。
いえ実際に光り輝いているのです。汗が。
「あれ? でも今、石塚くんとは別な方向から聞こえたような?」
「こ、こだまですよ先生! こだまで別の方向から聞こえてきたんです」
「こだま……そういうものかしら?」
流石にそれは無理がないか? とクラスの皆から不安そうな気配が漂いましたが、どうやら聖子は意外と単純だったようです。
「まぁいいわ。石塚くん、お昼までもうすぐだし我慢してね」
「はい先生! 我慢します!」
大きな声で返事し灰児が席に付きました。どさくさに紛れて春男も座ります。
少々やらかした感じもある春男ですが、とりあえずこの場も難を逃れました。
「ゴブ~……」
そう、思えた矢先。再びゴブの声。全員がぎょっとします。
「……やっぱり何か聞こえない?」
「そんなことはないゴブ~何を言ってるゴブか?」
「え? 石塚くん、何その言葉遣い?」
「何でゴブか? 何かおかしいゴブか?」
「先生~灰児は最近キャラづけに悩んでるんらし~らし~」
「え? きゃ、キャラ付け? よくわからないけど……ま、いっか」
そして無事に授業は再開されました。灰児に向けて赤也や男子たちがグッジョブと親指を立てました。
灰児が男を上げた瞬間なのでした。
そしてお昼になりました。
「緑山、なんであんなこと言ったんだよ?」
「腹をすかしたゴブリンは危険だと思ったからだよ。何も間違ったことは言ってないのだよ僕は!」
春男の行動に関して上がる疑問の声に彼は猛烈に反論しました。
もっとも、クラスの皆は別に春男を吊し上げに使用などと考えているわけではありません。ただ、少し心配しすぎじゃないかと思ったまでです。
「でも、ゴブちゃんは何もしないよ?」
「ゴブ~……」
「むしろ元気がないぐらいだな。この調子で人を襲えるとは思えないぞ?」
「う、それは……」
「はは、緑山は悪いイメージでゴブリンを見過ぎなんだよ。たしかにそういうタイプも多いけど、WEB小説なんかじゃ、人間に友好的なゴブリンも多いんだしね」
そこへ擁護の声を上げたのは水島 弘樹でした。毎日髪のセットは欠かせない、そんなサラサラ髪のイケメン男子です。
どことなくな女の子にだらしなさそうな雰囲気があり、実際にクラスだけではなく、学園中の女子から噂されるほどです。
「え? ヒロくんってWEB小説を読んでるの?」
「ゴブリンが出るようなのってどんな? すっごく気になる!」
すると女子が一気に食いつきました。キラキラ王子とも称されるほど人気絶好調の弘樹だけに、多くの女子は興味津々といったようす。尤もその中に桃子は入っていませんが。
「え? あ、いや、嫌だな僕じゃないよ。ただ、ほら、音無から聞いたことがあってね」
「え?」
その言葉に、四つ分ほど離れた席に座っていた少年が驚いてみせました。音無 冬眠鼠はクラスでは目立たない方ですが、それでも何人かと一緒になって休み時間にゲームやラノベの話をするのが好きなようであり、そう考えたらゴブリンの事を知っていてもおかしくないでしょう。
尤も弘樹とそれを話したかについては少々疑問でもあります。何せ当の本人はなんの話しだろう? と首を傾げているのですから。
「それなら納得~」
「あはは……」
どこか乾いた笑いを見せる弘樹です。
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