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【眠り王子】
「王子、また寝てんのかよ」
「王子?」
部員であり一年の時から友人で現在もクラスメートの真田の言葉に首を傾げると、真田は靴を脱いで畳に上がりながらそっと和雪の寝顔を覗き込んだ。 「眠り王子――入部してからいっつも寝てる姿しか見てねえから、俺らでそう呼んでる。にしても一昨日の添い寝にも驚いたけど、今日は今日で部長の膝枕かよ。贅沢だねぇ」
揶揄うようにそう言われて、照れくささに春彦はそっぽを向いた。
「別にいいだろ、減るもんじゃなし」
「まあ確かに減りはしないわな。けど、一応この部の活動目的は読書だろ。漫画読んでるやつもいるけど、寝てるだけのやつってのは初めてだ。何しに来てんの?」
「だから、寝に来てる」
「え?」
「不眠症なんだと」
「誰が?」
「だから、沢谷だよ」
「いやいやいや、不眠症の意味知ってるか? こんな、めっちゃ寝てるやつ……」
「良くは分からないけど、俺の傍だと眠れるんだってさ。最初は俺も半信半疑だったけど、部活に来てすぐの沢谷はいつも顔色悪くて、良く見るとクマもあるんだ。だけどここで一、二時間寝て起きた時には、大分すっきりしているように見えるから」
「ふぅん……」
少し納得したのか、軽口をやめて頬杖を突きながら和雪を眺めている真田に、春彦は続けて言った。
「たまーに眠れない時って誰にでもあるけど、次の日ってしんどいもんだろ。それが毎日なら、きっと俺たちには想像もつかないほど苦しいもんだと思うよ。根本的な解決にはならないかも知れないけど、沢谷が少しでも楽になるなら部室も俺の膝もいくらでも貸してやるよ」
そう呟いて、瞼の方に流れた髪の毛を優しい手つきでどけてやる。その様子を見て、真田は苦笑しながら呟いた。
「何かおまえ、王子のお母さんみてー」
「ほっとけ」
和雪に対して妙な保護欲が掻き立てられていることを、春彦は自分でも不思議に思った。が、あどけない寝顔を見ているとそんなことは些細な事柄に思えて、指の背でそっと柔らかい頬に触れてから、読みかけの文庫に再び視線を戻した。
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