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「そうかなあ、いつか白馬の王子様が現れて、そのお嫁さんになるって言うのは、女の子の永遠の夢だと思うんですけど。なんだか、女という人種は、そうやって何万年もやってきたんだから。たくましいだんな様は、外でマンモスを追いかけて、あたしは、洞窟の中の焚き火の周りで、子供たちをあやして、だんな様が獲物をしとめて帰ってくるのを待つのね」
「みちるちゃんに教えてもらったのね」
「ぴんぽ~ん。そうだ、マンモスの肉を買ってきてよ、それを料理するなら、わたしはうまいかもよ」
「きっと、黒焦げの胃の薬になっちゃうわね、マンモスの肉でも」
「ううむ、ならば、いっそ胃の薬の会社に入ろうかなあ」
「勝手に言ってなさい」
「あたしゃ、悲しいよ」
「それは、私のセリフ。それがわかっているなら、少しは努力して頂戴ね」
「えっと、これはもはや、ビョ~キのようなものでありまして」
「わたしは、あなたをあきらめないわ。あなたを世界一のシェフにしようって言うわけじゃないんだから。ただ、人間の食べ物を作れるようにしてあげたいだけで。それが大事な”花嫁修業”なのよ。あとは、お裁縫とかも」
「はいはい・・」
「本当にだんなさんになってほしいような素敵な男の子が目の前に現れたら、目の前ににんじんをぶら下げられた馬みたいに、全力疾走することになるかもしれないわね」
「さあ、どうでしょうね」
「なに、それ」
「まあまあ、そこまでにして」
「おばあさん」
「マンモスの肉を買っていましたよ」
「マジすか」
「うそよ。でも、かわいい孫ちゃんの花嫁修業のためだもの、バアバは、がんばりますよ」
「おかあさま」
「出世払いよ、出世払い。この子が、きっちり玉の輿に乗ってくれれば、元は直ぐに引けるわよ」
「そういう話ではないと思いますけど」
「そうかなあ、神代の昔から、佳い殿方を捕まえるのは、女の戦いなんですからね」
「また、そういうことを。そんな時代遅れのことを言うと、この時代じゃ、怒られちゃいますよ」
「別に、ほかの女の子たちがどう考えるかは、関係ないわ。人美ちゃんが、”花嫁修業”まっしぐらということなんだから、ばあばとしては、それを応援したいというだけのことなんだから」
「人美、このお肉を食べて、明日は転校生のお世話をします」
「そう、そう、その息よ、人美ちゃん」
さて・・いつのまに、ばあばは、転校生の話を知ったのでしょうか。本人たちは気にしている様子がないが、そうした不思議が起こるのが、この鷹垣の家なのだよ、諸君。そうして、翌日がやってくる。
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