辺境の男

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辺境の男

 「今日もひんやりとしやがる」  寝床から起き上がった男はそう呟いた。  男がこの星に来てから数え切れないほどの時間が経ったが、これだけは変わらない。暑くもなく、寒くもない。ただただひんやりとした空気が漂うばかりだ。  「さぁて、今日も行くか」  男は伸びをして一通り体をほぐすと歩き出した。向かう場所は毎日同じだ。  「今日も成っているな。いただきますよ」  男がやってきた場所に一本の木が立っていた。男が知る限り、この星で唯一の動植物だ。そこには青緑色の実がたくさんなっているのだが、その中に1つだけ赤い実がある。男はそれをもぎ取ると口にした。  「相変わらず、ひんやりするぜ。味は甘くも酸っぱくもねぇのによ」  種のない実を食べ終えると、男は寝床へと歩き出した。今日も他にすることはない。観光するにも探検するにも、この星は想像よりも小さく、1日あれば一周出来てしまう。そして、何もない荒野が続くばかりで、あるのは先ほどの木だけだ。  やりたいことを散々やってきた所為でこんな星に捨てられるとは。  小さくため息をついた男の頭上で大きな音がなる。  「あれ、もう来たのか」  男は急いで音の方へ向かった。  そこにはこの星に似つかわしくない金属で出来た建物があって、そこに円盤型の宇宙船が着陸したところだった。  円盤の一部が音もせずに開くとそこから地面に向かって長いタラップあらわれる。  「ご苦労なことで」  男は小さく呟いた。間も無く、タラップの上を滑るように、宇宙服を来た二人組が大きな1つの袋を二人で持ってやってきた。  「仕事なのでな。苦労も仕方ないことだよ」  宇宙服の男の言葉に、男の背中をひんやりとした汗がつたった。  「相変わらず、宇宙服をきていてもひんやりとした星だな」  大きな袋を地面に落としながら宇宙服の一人が言った。頭の所にある丸いのぞき窓はこちらから中をみることはできず、ちょっとした不気味さがある。  「へぇ、変わりませんです」  「よくもまぁ、こんなところに一人で居られるものだ」  もう一人の宇宙服が話す。  「へぇ、まぁ、おかげさまで」  男は媚びへつらう笑みを作って答えた。だが、心の中ではどうやってコイツらを出し抜こうかいつも考えていた。あの宇宙船があればこんな星とおさらば出来るのだ。しかし、奴らにはいつもスキがなかった。  「私たちがここに来るのも最後になりそうだ」  男は驚いた。このままここでくたばるのはゴメンだ。  「そうなんですかい。そりゃぁ残念だ。俺っちはどうなるんで?」  宇宙服達は顔を見合わせた後、言った。  「それなんだが、私としては君をここに置いておくのは忍びないと思っている。だから君を連れて帰れるように、上司と話しているんだ」  「え?なんだって?」  「そしておおむね、君を連れて帰る方針で固まっている。君ひとりをね」  男は全てを察した。  「わかりあした。じゃあ、早めに済ませますんで」  「頼んだよ」  そういうと、袋を置いて宇宙船に乗って星を出て行った。  男は大きな袋を担ぎ上げると、木のある場所へ向かった。  木の根元に袋を下ろすとそれを開けた。中には威厳のある顔をした紳士が入っていた。  「おい、起きなよ、あんた」  男が顔を叩くと、紳士は目覚めて身体を起こした。  「うう、なんだ君は。ここはどこなんだ」  「腹は空いてねぇか。とりあえず腹ごしらえをしよう。話はそのあとだ」  男は木から青緑の実を2つとると、差し出した。  「これは食べれるのかね」  「もちろんさ。ささ、食べながら話そう」  二人は青緑の実を食べた。一口かじると、紳士は意識を失って倒れた。男が顔に手を当てると、男はあっという間に体温を失ってひんやりとしてしまった。すると、木の根が地面からスルスルと伸びてきて、その紳士を絡め取ると、地面に引きずり込んでしまった。あっという間の出来事だった。  「ようし、これで終いだ」  男は食べるフリをした実を荒野に投げ捨て、寝床へ戻って眠りについた。  翌朝、木になった赤い実を食べたあと、発着場で彼は空を見上げていた。どれくらいこの星にいたのか、毎日同じことの繰り返しだった。それももう終わりだ。  宇宙船がやってきて、同じように二人の宇宙服が降りてくる。  「さ、迎えにきたぞ」  「ありがとうございやす」  「これをつけてくれ」  宇宙服は自分たちと同じようなヘルメットを男に差し出した。  「なんですかい、こりゃ」  男がヘルメットを受け取ると、ひんやりとした感触が手をつたった。  「なに、僕らがつけているのと同じだよ」  「安全対策みたいなものだ。それを付けたらいくぞ」  その言葉にはしのごの言えない圧力があったので、男はそれを頭につけた。中から見える景色はつける前と変わらない。  二人と一緒に宇宙船に乗り込む。中は全て銀色で出来ていて、冷たい印象を受ける。だが暖房が聞いているのか、ほのかに暖かい。  「この部屋だ。この部屋でゆっくりと旅路を楽しんでくれ」  宇宙服が銀色のドアを開けると、中は薄暗く何も見えなかった。言われるがままに男が部屋に入ると、そこには驚くべき光景があった。  そこには夢にすら見なくなった美女がひしめいており、テーブルの上には豪華な食事がならび、奥の棚にはあらゆる種類のお酒が並んでいた。  「なんだこれは!」  男が声を上げると、宇宙服は言った。  「君の働きに対するささやかな感謝の気持ちだ。楽しんでくれ」  男は意気揚々と美女に飛び込んだ。
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