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嵐の後で
「なぁ、今度みんなでビアガーデン行くんだけど、花も行かない?」
ある日の昼休み。昼食に出るついでに設計課に寄った俺は、入り口の一番近くに座る福島花に声を掛けた。花の机の上にはパン屋の袋が上がっている。
「他に誰がいるの?」
「木村とか、鶴ちゃんにも声を掛けたけど」
俺と同じ二課の木村に一課の鶴野理恵、上手くいけば桐島主任も来るはずだ。木村のうっかりの所為で神田女史にもバレてしまったから、神田さんも来てしまうんだけれど。
花は椅子をくるりと回転させて俺を見上げた。サラサラとした真っ黒な髪は綺麗なうなじが映えるショートカット、吊り上がったネコのような瞳にぽってりとした赤い唇。耳には大きなリング状のピアスが光っていた。
「理恵に?」
訝しがる声と共にネコの目が眇められる。俺は肩を竦めた。
「良いだろ? 二課と一課は隣なんだから。先に声を掛けたって」
「別に悪いなんて言ってないわよ」
ツンと尖った唇が可愛らしい。俺は片足に体重を乗せ、腕組みをした。
「もしかしてヤキモチ?」
花は「はぁ?」と語尾を上げ、眉間にシワを寄せる。
「馬鹿じゃないの?」
冷たく言い放たれて苦笑した。神田女史はキツイおばちゃんって感じだけど、花は違う。キツさに可愛げがあるっていうか。
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