嵐の後で

1/12
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

嵐の後で

「なぁ、今度みんなでビアガーデン行くんだけど、花も行かない?」  ある日の昼休み。昼食に出るついでに設計課に寄った俺は、入り口の一番近くに座る福島花に声を掛けた。花の机の上にはパン屋の袋が上がっている。 「他に誰がいるの?」 「木村とか、鶴ちゃんにも声を掛けたけど」  俺と同じ二課の木村に一課の鶴野理恵(つるちゃん)、上手くいけば桐島主任も来るはずだ。木村のうっかりの所為で神田女史にもバレてしまったから、神田さんも来てしまうんだけれど。  花は椅子をくるりと回転させて俺を見上げた。サラサラとした真っ黒な髪は綺麗なうなじが映えるショートカット、吊り上がったネコのような瞳にぽってりとした赤い唇。耳には大きなリング状のピアスが光っていた。 「理恵に?」  訝しがる声と共にネコの目が眇められる。俺は肩を竦めた。 「良いだろ? 二課と一課は隣なんだから。先に声を掛けたって」 「別に悪いなんて言ってないわよ」  ツンと尖った唇が可愛らしい。俺は片足に体重を乗せ、腕組みをした。 「もしかしてヤキモチ?」  花は「はぁ?」と語尾を上げ、眉間にシワを寄せる。 「馬鹿じゃないの?」  冷たく言い放たれて苦笑した。神田女史はキツイおばちゃんって感じだけど、花は違う。キツさに可愛げがあるっていうか。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!