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変わりゆく世界
高額な報酬に釣られて来てしまったが、果たして大丈夫なのだろうか?もしかたら未承認の薬を打たれたり、あるいは得体の知れないものを食べさせられたり、はたまた何かしらの臓器を抜き取られたりするのではないだろうか。そんなよからぬ思いが次から次へと頭をよぎる。
とあるビルの5階に位置する小奇麗なオフィス。ネットで実験参加者募集の書き込みを見つけ、そこに記された電話番号にかけるとここに案内されたのだ。会議室と思しき一室で待たされる間、不安がどんどん大きくなってきた。やっぱり止めますと言おうかと思い始めた矢先、白衣を来た男女が入ってきた。
二人は俺の対面に座ると、この度はご協力有難うございますと言って深々と頭を下げた。
「それではまず、こちらをお読みいただきまして、ご納得がいただけましたらご署名をお願いいたします」
誓約書だった。実験内容を口外しないなど、お決まりの文句がずらりと並んでいる。だが肝心なその実験内容に関する事柄が書かれていない。
「あの……」と俺は二人に視線を向けながら、
「実験って、どんな実験なんですか?」
「申し訳ありません。詳しくお教えすることはできないんです」
「お教えしてしまうと、実験結果に影響がでる恐れがありますので」
男と女が順に答えた。
「まさか、健康を害したり、命の危険があったりはしないですよね?」
恐る恐る訊ねると、男のほうが朗らかに笑って見せた。
「ご心配には及びません。命の危険も健康を害することもありませんよ」
その言葉でとりあえず不安は和らいだ。他にご質問は?言われたので、下世話だがお金のことを訊ねてみる。
「報酬に100万円もらえるって、本当ですか?」
「謝礼のことですね」と女が応じる。
「もちろんお支払いいたします。そちらの誓約書にご署名を頂いた時点でまず一割を、実験がすべて終了した後に残りをすべてお渡しします」
10万円でも大学生の俺にとっては大金だ。その10倍貰えるのだから、ぐだぐだ考えずに実験に参加するべきだろう。命の危険はないのだから。
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