序章

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 「臨場感を重視する為に、体験したご本人から話を聞きたいのですよ。」  「それは、……凄く怖いでしょうね。」  「えぇ、そうなのです。」  私は目の前の彼を悪趣味な人だと認識した。  成り行きで取材を受けてしまったのは、間違いだったのか。  だが今更ながら断ったとしても、私が話すまで食い下がるだろうと思う。  「わかりました。……お話しますが、今回だけという事でお願いします。私としては、もう思い出したくもないので。」  「承知しました。」  そう言って、頷きながら微笑む男の顔は、やはり不気味さが滲み出ている。  死んだ魚のような目、痩けた頬と白い毛が混じる無精髭。八重歯の覗く口元。はっきり言って誠実さの欠片も見当たらない。  さっさと話をしてしまう事にし、私はすぐ喋り出した。  「えっと、……あれは私が社会人となって、ようやく一年が経過した頃の事でした。」
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