一話

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 その話を体験した年は、忘れる事ができない程に、とても濃く充実していた時だった。私にとっても、その年は人生の分岐点であったのも理由の一つだからである。  というのも、私が初めて自分の車を手に入れたのも同じ頃だった。  成し遂げるまでは、とても忙しい日々を過ごした。仕事をこなしながら運転免許センターへ通い、四回目の最終試験で、ようやく免許取得に至った。  その後はすぐ近くにある中古車店を巡り、小さめな普通車を見つけた。値段も手頃だったので、コツコツと貯めた貯金と一年分のボーナスを使って購入した。  型は十年も前のだが、走行には全く問題ない。おまけにカーナビも内臓されている。  ハンドルを強く握り、アクセルを踏むと車が走りだし、自分だけで運転したのが嬉しくなった。  私は休日にはドライブを満喫するようになった。  もちろん安全運転だ。  オーディオではCDを掛け、お気に入りの曲を流す。私が子供の頃に好きだったアーティストばかりをラインナップしており、自分の車を買ったら絶対に聞こうと思っていたのである。  とても有意義な時間だった。  行動範囲は日に日に広がり、遠くの方まで伸びていく。走行距離も一万キロを越える。  そして、遂には二つ先の県境にまで足を運ぶようになった。
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