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追憶の旅3
「あのさぁ……」
「んー?なに?」
「その事なんだけど……俺、お前の事、幼馴染だなんて思ってないから」
……この時の私の鈍感さと言ったら、しーちゃんの言う通り、"ど"が付く程のものだったと反省する。だってこの時の私は、"ちょっと待って! それって兄妹? いや、姉弟……えっ、まさか男友達みたいなものってコト?!"なんて本気で思ってたから。
「えっと……そうなると私はしーちゃんのなにみたいなものなの?」
「ったく……今ので分かれよっ……お前は守ってやりたいっていうか、ずっと側にいてやんなきゃっていうか……俺にとって大切な人って事だよ!」
「ごめん……それって妹って事でいいの? えっ……もしかしてお母さんじゃないよね?!」
……苦笑すら出てこない。
確かにこの時の私は、しーちゃんの"幼馴染だなんて思ってないから"の一言にかなり動揺していたけど、それにしても改めて見返すと酷いものだ。
「馬鹿っ、どっちでもねぇよ」
そして私は高鳴る鼓動を抑えつつ、目を見開き耳を澄ませると、しーちゃんへと意識を集中させた。
"この後"だ……
「まさかの……ペッ……」
「俺の彼女になれよ」
「ト……えっ?」
あぁ……もう一度、しかもこうやってしっかりとこのしーちゃんの言葉を聞けるなんて、私はどれだけ幸せなんだろう。私がこうやって不思議な記憶の旅をしているのはこの為なんじゃないか、なんて思わせるくらいだ。
「あぁ! もうっ! それだからお前はほっとけないんだよ! 鈍感だから何にも気付いて無いんだろうけどお前結構男子にモテてんだぞ? 俺が幼馴染だからってそういう関係にならないとか高括られてどれだけ俺が相談受けた事か! お前は知らないだろうけどお前が他の男と付き合うとか想像するだけで眠れないし……もう無理なんだよ……お前が他の男にそういう目で見られるの」
その時の私には今まで想像もしなかったようなしーちゃんの気持ちが私の耳へと飛び込んできた。
私だけがそっと心の奥にしまい込んでいた筈のその気持ちが、しーちゃんの口から飛び出してくる……
すると何故だか小さな涙の粒が私の思考に関係無く溢れ始め、それは瞬く間に夏の夕立ちの様に大粒の涙へと変化したのだった。
「そんな……私が他の男と付き合う訳ないじゃん。だって……だって私はずっとずっとしーちゃんしか好きになってなかったんだもんっ!鈍感なのはどっちよ……馬鹿っ!」
その時のしーちゃんの驚いた顔といったら、もし今の私がこの身体を動かせたなら絶対写真を撮って携帯の待ち受けにしていたと思う。
「えっ……今何て」
「だから……いいよ、彼女になっても」
こうして私達は"ただの幼馴染"からトクベツな関係へと変わった。この出来事は私の人生の中で一番特別な思い出として、これからもずっとずっと大切に心の中に輝き続けるんだって私は確信した。
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